2016年10月22日土曜日

『国土交通白書 2012』 復興を通じた国土交通行政の転換

『国土交通白書  2012 復興を通じた国土交通行政の転換       

国土交通省/編      ぎょうせいデジタル

平成23年度の国土交通行政の各分野における動向を、政策課題ごとに報告。東日本大震災からの復興と、持続可能で活力ある国土・地域づくりに向けた国土交通省の取組みも紹介する。

『国土交通白書 2012』テーマ:復興を通じた国土交通行政の転換
国土交通省/編 ぎょうせいデジタル
2013年8月2日公表(平成24年度版) A4判・約550頁(本体+参考資料)
東日本大震災から1年5か月後に出された、国土交通省史上もっとも異例かつ最大の白書。
表紙は通常の青ではなく「三陸の海と朝焼け」をあしらった特注デザイン。
震災を「戦後最大の国土危機」と位置づけ、国土交通行政が「成長型」から「強靭(レジリエント)型」へ完全にパラダイムシフトすることを宣言した歴史的転換点の文書である。
構成と徹底要約第1部 東日本大震災が突きつけた現実(約200頁)
衝撃の数字が並ぶ「黒い章」。
  1. 被害規模
    ・死者・行方不明者 19,594人
    ・完全壊滅市町村 28
    ・がれき総量 約3,100万トン(20年分の産業廃棄物に相当)
    ・液状化被害面積 約430km²(東京23区の7割)
  2. インフラ壊滅
    ・東北地方太平洋沖地震による高速道路被害 約1,200km
    ・港湾施設被害 全国319港のうち134港が機能停止
    ・鉄道 JR東日本だけで2,000km以上不通
    ・空港 仙台空港完全水没(自衛隊ヘリ基地化)
  3. 国土交通省自身の被害
    ・職員の殉職 3名
    ・地方整備局職員の家族死亡・行方不明 約120名
第2部 復興への緊急対応(2011~2012年度)
  • 復興予算 国土交通省分だけで約8兆円(3次補正まで)
  • 主な実績(2012年6月時点)
    ・応急復旧率 道路99%、港湾92%、下水道88%
    ・三陸沿岸道路の「復興道路」指定(2011年12月)
    ・「防災・減災ニューディール」初提示(後の「国土強靭化計画」の原型)
第3部 国土交通行政の完全転換宣言(白書の核心)
初めて「成長優先からの脱却」を公式に宣言。
旧パラダイム(~2010年)
→ 経済成長 → 公共投資 → ハコモノ建設
新パラダイム(2011年~)
→ 命と暮らしの防護 → 強靭化投資 → 減災・防災インフラ
→ 「防ぐ」から「生き残る」国土へ
具体的な10大転換
  1. 津波防波堤は「1000年に一度」基準に引き上げ
  2. 空港・港湾の標高を+5~10mかさ上げ
  3. 全ての鉄道・高速道路に「津波避難ルート」義務化
  4. 都市計画で「津波ハザードマップ」完全義務化
  5. 住宅再建は「高台移転」を基本方針に
  6. がれき処理は「広域処理」から「域内完結」へ転換
  7. 復興まちづくりは「コンパクトシティ+ネットワーク」
  8. 三陸に「復興国立公園」創設(2013年実現)
  9. 国土交通省内に「復興庁」並みの「復興局」設置
  10. 2020年までに「強靭な国土」完成を国家目標に
第4部 復興の現状と課題(2012年6月時点の生々しい実態)
  • 高台移転用地の確保難航(住民合意率平均38%)
  • がれき処理率 宮城県18%、岩手県6%(全国平均でも11%)
  • 復興交付金事業の執行率 わずか9.3%(申請が複雑すぎる)
  • 「二重ローン」問題で住宅再建ストップ多数
付録・衝撃の図版
  • 「津波到達高さマップ」全国版(貞観津波と重ね合わせ)
  • 「復興前・復興後」空中写真ビフォーアフター(陸前高田・気仙沼など)
  • 「がれき仮置き場」全国マップ(東北が黒く埋まる)
白書が残した歴史的インパクト
  • 「国土強靭化計画」(2014年)の直接の原点
  • 「防災・減災ニューディール」→後の「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」
  • 2025年現在の「三陸沿岸道路」「高台団地」「津波避難タワー」ほぼ全てがこの白書で決まった
  • 南海トラフ・首都直下対策もこの方針を踏襲
一言で言うなら国土交通省が「これまでの国土政策は間違っていた」と全面降伏し、震災を機に「命を守るインフラ」へ完全転換を宣言した550頁の「行政革命宣言書」。
2011年3月11日以前と以後で、国土交通行政が真っ二つに割れた決定的証拠です。
2025年現在も、同省職員が「白書と言えば2012年版」と答える、永遠のバイブルです。


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