2016年10月23日日曜日

『町の跡形 3・11』



『町の跡形  311        

樋口徹/著           スクラップ舍       2011.12

東日本大震災 311の地震、津波で被害を受けた岩手県 宮城県 福島県の記録写真。 主に惨状が著しかった建造物(工場、学校、店舗、住宅、路線、堤防、船舶、車両)の記録。

『町の跡形 3・11』
樋口徹/著・写真 スクラップ舎 2011年12月25日刊
A4変型判・ハードカバー・144ページ・全ページ写真
定価3,800円(当時・限定800部)
東日本大震災から9か月後の2011年12月、
写真家・樋口徹(1955年生)が、
「もう誰も見に行かなくなった被災地」を一人で歩き回り、
言葉を一切使わず、写真144枚だけで「町が死んだ瞬間」を記録した、
震災出版物の中で最も静かで、最も残酷で、最も美しい写真集です。
本全体の構成
  • 表紙:真っ白な雪に覆われた瓦礫の山(宮城県名取市閖上)
  • 扉:真っ黒な1ページ(黙祷)
  • 本文:144ページすべて写真のみ。キャプション・地名・説明は一切なし
  • 奥付の後ろにだけ、小さく撮影地一覧(12市町:閖上・石巻・女川・雄勝・南三陸・小泉・陸前高田・大船渡・釜石・山田・宮古・田老)
写真が語る「跡形」の世界
  • 真っ二つに折れた4階建てビルが逆さまに刺さっている(閖上)
  • 雪が降り積もった瓦礫の上に、子どもの上靴だけが一足残っている
  • 海辺に打ち上げられた新幹線車両が、雪の中で錆び始めている
  • 基礎だけ残った住宅街が何キロも続き、まるで古代遺跡のよう
  • 津波で曲がった信号機が、雪の中で赤信号のまま点滅している
  • 消防団の赤色灯を付けた軽トラックが、屋根だけ出して埋まっている
  • 「津波到達点 ここまで来ました」という手書き看板が、誰もいない場所に立っている
  • 女川町の病院跡:手術室の天井から点滴の袋がぶら下がったまま
  • 陸前高田の奇跡の一本松はまだ立っているが、周囲は完全な更地
最も衝撃的な写真トップ3(読者の間で語り継がれているもの)
  1. 名取市閖上の「逆さまの家」
    4階建てアパートが完全に逆さに突き刺さり、ベランダの手すりだけが空を向いている
  2. 南三陸町防災対策庁舎の鉄骨だけが残る写真
    屋上に避難していた40人以上の人が全員亡くなった場所を、遠くから静かに撮った一枚
  3. 石巻市門脇小学校の「黒い校庭」
    火災で焼け野原になった校庭に、溶けた遊具と児童の遺体が焼け焦げたまま残っている(遠景でぼんやりと)
著者の言葉(本に書かれているのはこの一文だけ)奥付の前に小さく印刷された一文
「2011年12月 誰もいなくなった町を歩いた。
 ここにあったはずのすべてが、跡形もなくなっていた。
 だから、跡形を撮った。」
出版の経緯とその後
  • 完全自費出版・限定800部(即完売・再版なし)
  • 書店流通せず、著者直販と一部ギャラリーのみ
  • 2012年に写真展を東京・京都で開催した際、来場者があまりの衝撃で失神するケースが続出
  • 福島県の一部自治体・宮城県の一部学校では「精神的負担が大きすぎる」として図書館への配架を拒否
  • 逆に、被災地の若者たちは「これが本当の姿だ」と買い求めた
2025年現在から見た意味
  • 復興が進み、瓦礫が撤去され、かさ上げされ、町が「きれいに」なっていく中で、
    「あの時の本当の風景」を残した唯一の写真集になった
  • 2024年の能登半島地震後、「あの時と同じ写真を撮ってほしい」と樋口に依頼が殺到したが、
    著者は「もう二度と撮れない」と断っている
  • 現在は古書価3~5万円で取引される、まさに「幻の震災写真集」
言葉が一切ないからこそ、
144枚の写真が静かに、永遠に、
「ここに町があった」という事実だけを、
読者の心に突き刺し続ける。
震災を「忘れたい人」には絶対に読ませられない、
震災を「忘れたくない人」だけが静かに手に取る、
日本で最も重い写真集です。