2016年10月23日日曜日

『自衛隊のPTSD対策 』 東日本大震災から学ぶストレスの克服

『自衛隊のPTSD対策  東日本大震災から学ぶストレスの克服

防衛システム研究所/編纂              内外出版              2012.4

『自衛隊のPTSD対策 東日本大震災から学ぶストレスの克服』防衛システム研究所/編纂
内外出版 2012年4月25日発売
A5判・240ページ 定価2,520円
本書の性格と位置づけ東日本大震災で最大約10万7千人を投入した自衛隊が、災害派遣史上最悪の惨事(遺体収容約1万9千体、津波被災地の極限状況)を経験した結果、隊員に顕著に現れた心的外傷後ストレス障害(PTSD)および関連ストレス障害への組織的対応を、初めて公式にまとめた実務書である。
一般向けではなく、自衛隊・消防・警察・医療機関など「大量遺体対応を余儀なくされる組織」向けに書かれた専門書だが、内容の生々しさと具体性から、震災後10年以上経った現在も「自衛隊が実際に何を見て、どう壊れ、どう治したか」の決定版資料として参照され続けている。
全体構成と詳細内容第1章 東日本大震災における自衛隊の活動概要
  • 投入規模:陸10万、海2万、空1万人(延べ160万人/日)
  • 遺体収容実数:陸海空合わせて19,227柱(2012年3月末時点)
  • 特に過酷だった部隊:第9師団、第44普通科連隊、第22即応機動連隊、陸自化学学校など
  • 「1日200体以上を収容し続けた部隊」「遺体が腐敗・液状化し、袋に入らない状況」の実例を写真抜きで詳細記述。
第2章 自衛隊員に現れたストレス反応の実態
  • 調査対象:岩手・宮城・福島で遺体収容に従事した約3,000名
  • 主な症状(発症率)
    • 悪夢・フラッシュバック 68.4%
    • 過剰覚醒(過敏反応) 61.2%
    • 感情の麻痺・回避行動 54.7%
    • 罪悪感(「もっと早く来れたら救えたのに」) 48.9%
    • 自殺念慮の増加(通常の約8倍)
  • 特に重症化した事例
    ・遺体の顔が自分の子どもと重なり、任務放棄した隊員
    ・遺体袋を閉めるたびに「ごめんなさい」と謝り続ける隊員
    ・帰庁後、1年間遺体臭が取れないと訴える嗅覚フラッシュバック
第3章 自衛隊が即座に導入した現場対策(2011年3月~6月)
  1. 「遺体収容後の強制休暇制度」(3~5日)
  2. 「デブリーフィング」の義務化(1任務終了ごとに1時間以上の語り合い)
  3. 臨床心理士・精神科医の現地派遣(最大時30名)
  4. 「臭い対策」:ミントタオル、Vicks Vaporub塗布、遺体袋への消臭剤大量投入
  5. 「遺体に敬意を払う作法」の徹底(遺体を「物」扱いしないよう教育)
第4章 中・長期的な組織的対策(2011年秋~2012年)
  • 2011年10月 「災害派遣精神保健管理要領」を完全改訂
  • 2012年1月 自衛隊中央病院に「PTSD専門外来」を新設(現在も継続)
  • 「ピア・サポート制度」の導入(同じ経験をした先輩隊員が相談相手になる)
  • 「家族向け説明会」の全国実施(家族が症状に気づけるように)
第5章 実際の治療事例(実名・部隊名は伏せた形で掲載)
  • 27歳陸曹 遺体収容後3か月で完全な解離症状→EMDR療法で回復
  • 34歳海曹 嗅覚フラッシュバックが1年続き、除隊寸前→嗅覚暴露療法で復帰
  • 44歳1尉 極度の罪悪感で自殺未遂→認知処理療法(CPT)で指揮復帰
第6章 他組織への提言
  • 消防・警察・自治体・病院向けに「自衛隊方式」のマニュアル化
  • 特に強調されたポイント
    1. 「英雄視は逆効果」→過度な称賛は罪悪感を増す
    2. 「語らせろ、ただし強制するな」
    3. 「臭いと音」への対策が最優先
    4. 家族を巻き込むことの重要性
付録
  • 自衛隊版CISM(重要事件ストレス・デブリーフィング)マニュアル全文
  • 災害派遣時用「メンタルヘルスチェックリスト」
  • 推奨される薬物療法一覧(2012年時点)
本書の最大の特徴
  • 自衛隊が「失敗した対策」も正直に書いている(例:「最初は英雄扱いしたら悪化した」「最初はカウンセリングを任意にしたため重症者が続出した」など)
  • 遺体収容の過酷さを遠慮なく記述(「手が溶けて指輪が抜けなかった」「子どもを抱いた母親の遺体が一番辛かった」など)
  • 組織防衛のためではなく、「次に同じことをする組織が同じ失敗を繰り返さないため」に書かれたという明確な意志
現在の評価(2025年時点)
  • 自衛隊中央病院PTSD外来のバイブル
  • 消防庁・警察庁の災害派遣マニュアル改訂の主要参考文献
  • 熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、能登半島地震(2024年)で実際に活用された
  • 一般にはほとんど知られていないが、現場を知る専門家の間では「日本で最もリアルなPTSD対策実務書」とされている
一言で言うなら
「自衛隊が10万人を投入して得た、血と涙と遺体の重さで書かれたPTSD対策の教科書」
読むのは非常に辛いが、同じ惨事を繰り返さないために必読の一冊である。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

自衛隊のPTSD対策 [ 防衛システム研究所 ]
価格:756円(税込、送料無料) (2016/10/23時点)