2016年10月21日金曜日

『東日本大震災津波 』 岩手県防災危機管理監の150日



『東日本大震災津波  岩手県防災危機管理監の150          

越野修三/著       ぎょうせい           2012.7

岩手県庁で災害対策本部支援室を指揮・統括した著者が、東日本大震災での災害対応における葛藤や問題点、教訓を纏める。当時の自衛隊の救援活動と自治体の連携についても紹介。

『東日本大震災津波 岩手県防災危機管理監の150日』 徹底詳細要約書籍の全体像と背景この書籍は、2011年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)における津波被害を中心に、岩手県の防災対応を当事者視点で描いたドキュメンタリー調の回顧録です。著者の越野修三は、元陸上自衛官で、阪神・淡路大震災(1995年)では陸上自衛隊第13師団作戦部長として神戸市の救援活動を指揮した経験を持つ人物です。2006年に自衛隊を退官後、岩手県庁に転職し、県総合防災室特命参事を経て防災危機管理監に就任。震災発生時はこの立場で、岩手県災害対策本部の実質的な指揮を執りました。 書籍は、震災直後の混乱期から災害対策本部が閉鎖された2011年8月11日までの約150日間を焦点に、発災当日から著者がノートに記録した詳細なメモ(5ヶ月で4冊分)を基にまとめられています。これにより、県・市町村・自衛隊・警察・消防の連携の内幕が初めて明かされ、自治体の防災責任者による書き下ろし本として画期的です。 書籍の目的は二重です。一つは、未曾有の災害下での現場の「真実」を後世に伝えること。もう一つは、災害対策の現状に対する警鐘を鳴らすこと。特に、被災者の「必要性」を起点とした柔軟な対応の重要性を強調し、法律や規則の硬直性が救済の妨げになる点を批判的に分析しています。 全体のトーンは冷静で客観的ですが、著者の自衛隊経験に基づく危機管理のプロフェッショナリズムが随所に表れ、読者に「防災の教訓」を実感させる構成です。ページ数はA5判200ページで、口絵に岩手県沿岸部の震災前後空撮写真をカラーで掲載し、視覚的に被害の凄惨さを伝えます。推薦文は当時の達増拓也岩手県知事によるもので、著者の貢献を称えています。 岩手県の被害状況を概観すると、死者・行方不明者約4,700人(全死者数の約半数)、家屋全壊約3万棟、浸水面積約1,000平方キロメートルと、津波の壊滅的被害が中心でした。著者はこれを「大規模多重災害」として位置づけ、阪神大震災の教訓を活かした事前準備(例: 震度6以上で即時自衛隊派遣要請の仕組み)が功を奏した点を強調しますが、津波の予測不能性と住民の油断(官製ハザードマップの過信)を反省点として挙げています。 以下では、章ごとの詳細な要約を展開します。各章は時系列やテーマ別に整理され、具体的なエピソード、意思決定プロセス、教訓が克明に記述されています。第1章: 未曾有の巨大地震・大津波〜発災からの8日間この章は、書籍の核心部で、2011年3月11日午後2時46分の発災から8日間(3月19日頃まで)の初動対応を時系列で追います。著者は当時、八戸市で国民保護セミナーに出席中でしたが、発災5時間後に県庁に戻り、既に設置された災害対策本部に合流。驚くべきことに、自衛隊への災害派遣要請は発災わずか6分後に行われており、これは事前の知事との取り決め(震度6以上で即時要請)によるものです。
  • 発災直後(3月11日午後): 震度6強の揺れと最大40mの津波が沿岸31市町村を襲う。県庁では即時本部設置、DMAT(災害派遣医療チーム)の出動、避難所開設が並行。著者は本部で情報収集を指揮し、断片的情報(津波到達時間、被害規模)から「全県的惨事」を察知。津波警報の遅れ(気象庁の予測不足)を指摘しつつ、県独自の即時放送システムが住民の命を救った事例を挙げる。
  • 初動の混乱(3月12-13日): 通信網麻痺で情報が途絶え、ヘリコプター偵察で沿岸部の壊滅を確認(例: 大船渡市で漁港全滅、死者数百人)。自衛隊の航空自衛隊那覇救難隊が初のヘリ救助を実施。著者は「被災者の必要性」を基準に優先順位付け(食料・水・毛布の配給)を指示し、ボランティアの未熟さを懸念して統制。
  • 8日間の集大成(3月14-19日): 余震続きの中、仮設トイレ設置や死体収容が急務に。警察・消防との連携で約1,000体の遺体処理を進めるが、精神的負担が大きい。著者はノートに「津波の速度は予測不能。防潮堤の限界」を記し、住民の「てんでんこ」避難(例: 釜石市での学校生の自主逃避行)が成功例として登場。
この章の教訓: 初動のスピードが命を分けるが、予測不能な津波に対し、官主導のシミュレーション(ハザードマップ)が住民の油断を招いた可能性を分析。死者6,000人の大半が津波関連で、「自助・共助」の重要性を強調します。第2章: 史上最大の作戦〜自衛隊の救援活動と自治体の連携ここでは、発災後1週間以降の救援フェーズを、自衛隊中心に詳述。自衛隊は総勢10万人規模(史上最大)の投入で、岩手県単独で約5万人が動員されました。著者の自衛隊OB視点が光り、自治体との「現場主義」連携を具体的に描きます。
  • 自衛隊の展開(3月下旬): 東北方面隊の即時出動で、ヘリによる物資投下や土嚢積み上げを実施。著者は本部で「自衛隊の機動力を自治体の弱点補完に活用」と判断し、合同作戦室を設置。例: 陸上自衛隊の重機で瓦礫撤去、航空自衛隊の空輸で医薬品供給。
  • 連携の課題と成功(4月): 警察(捜索)、消防(消火・救出)とトリオを形成するが、指揮系統の重複(例: ボランティア統制)が混乱を招く。成功例として、大槌町での自衛隊・地元漁師の共同捜索(数百人救出)を挙げる。著者は「自衛隊の規律が自治体の混乱を安定させた」と評価。
  • ピーク時の運用: 5万人規模のキャンプ設営、1日10万食の給食提供。著者は「史上最大の作戦」として、阪神大震災との比較(規模10倍)を加え、事前訓練の重要性を説く。
教訓: 自治体単独では不可能な大規模救援で、自衛隊の「迅速・大量・持続」が鍵。だが、情報共有の遅れが非効率を生んだ点を反省。第3章: 東日本大震災への対応とその教訓150日間の全体像を振り返り、対応の評価と教訓を体系化。被災者支援の原則「必要性からの発想」を繰り返し主張します。
  • 支援の進展(4-6月): 仮設住宅建設(約2万戸)、生活再建支援。著者は「法律でできない」壁(例: 緊急物資の柔軟配分)を批判し、特例法の必要性を提言。
  • 心理・社会面: 被災者のPTSD対策、ボランティアの精神的ケア。津波被害分析: 防潮堤の高さ不足と住民の過信が死者を増やした。
  • 教訓リスト: (1) 自助・共助の徹底(「津波てんでんこ」)。(2) 事前準備の自動化。(3)官民連携の柔軟性。阪神経験から「多重災害」の予測を強調。
この章は書籍の「警鐘」部分で、将来の防災政策に直結する内容です。第4章: 岩手県防災危機管理監としての5年の日々著者の在任5年(2006-2011)を概観。震災前の日常業務と準備を回想し、宮城県沖地震の99%発生確率を基にした危機管理体制構築を詳述。退官前の「防災文化」醸成活動(訓練・セミナー)が、震災時の即応性を支えたと分析。 第5章: 大震災津波の教訓を海外に震災後の国際交流を扱い、海外(例: 米国・欧州)への講義経験を基に、日本独自の津波対策を輸出。チリ地震津波(1960年)の歴史を振り返り、グローバルな防災共有を提唱。資料編: 東日本大震災津波の発生から2か月後までの災害・復旧状況等の概要時系列表、被害統計、地図、復旧進捗を収録。死者数推移、支援物資量、自衛隊出動日誌などが便利な参考資料として機能。読者レビューと社会的評価
  • Amazonレビュー(5つ星、2013年): 「自衛隊と自治体の舞台裏がわかる。感動的で、活動の裏側を知り、感謝の念が湧く。」
  • 読書メーターなど: 「被災者救済の敵は規則。必要性優先の発想が鍵」との感想が多く、防災実務家に高評価。著者のノート記録が「生々しい」と絶賛される一方、専門用語多めで一般読者にはやや難解との声も。
総じて、この書籍は防災の「現場ドキュメント」として不朽の価値を持ち、2025年現在も東日本大震災の教訓本として参照されます。徹底した当事者視点が、単なる回顧を超えた実践的指針を提供します。


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