『被災後を生きる 』 吉里吉里・大槌・釜石奮闘記

『被災後を生きる 』 吉里吉里・大槌・釜石奮闘記   

竹沢尚一郎／著    中央公論新社       2013.1

東日本大震災で最大の被害を出した市町村のひとつである、岩手県大槌町。被災翌月から長期間現地に暮らし、復興に取り組む人々の声に耳を傾けた著者が、生々しく繊細な語りからあふれだす、人びとの真情と思いやりを伝える。

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『被災後を生きる　吉里吉里・大槌・釜石奮闘記』　竹沢尚一郎　著　（中央公論新社、2013年1月刊）　詳細な要約著者紹介と執筆背景竹沢尚一郎は、1951年生まれの文化人類学者で、国立民族学博物館（民博）の教授。東京大学文学部卒業後、社会人類学を専門とし、人間関係や地域社会のプロセスをフィールドワークを通じて研究する。主著に『社会とは何か：システムからプロセスへ』（2010年、中央公論新社）などがあり、文化人類学の視点から社会のダイナミクスを分析する手法で知られる。本書は、2011年3月11日の東日本大震災・津波被災後、著者が岩手県大槌町と釜石市を中心に現地に滞在し、被災者たちと寝食を共にした記録である。震災翌月（2011年4月）から断続的に約8か月間、被災地に通い詰め、復興の現場を観察。文化人類学者の視点を生かし、単なる被害報告ではなく、「被災後を生きる」人々の感情、行動、共同体意識に焦点を当てる。著者は自身も復興まちづくりに参加し、住民の声に耳を傾けながら、津波の記憶がもたらす「生の脆弱性」と「再生の力」を描く。目的は、被災者の「真情と思いやり」を生々しく伝えることで、復興の制度設計や行政・住民の関係に提言を込める。全体のトーンは、客観的な観察と共感的な語りが融合し、読者に被災地の「奥底の光」を照らし出す。本書は中公新書として刊行され、約250ページ。3章構成で、津波直後の避難行動から長期的な復興までを時系列的に追う。吉里吉里（きりきり）地区（大槌町）を主軸に、釜石市の花露辺（はなづばた）集落や箱崎地区などの事例を交え、漁村の連帯性を強調。被災死者数で全国最多級の大槌町（死者・行方不明者約1800人）を中心に、津波常襲地帯としての三陸沿岸の歴史（明治・昭和の大津波経験）を背景に据える。全体のテーマと構造本書の核心は、「危機を生き抜く共同体」の力と、その限界。3つのテーマを軸に展開：

1. 津波からの避難行動：歴史的教訓と即時対応の成功例。
2. 避難所運営：住民主導の自助・共助の実践。
3. 復興まちづくり：行政との摩擦と住民のジレンマ。

これらを通じて、著者は「文化人類学とまちづくりは共通点が多い」と指摘。人間観察のスキルで、被災者の心理（喪失感、連帯、未来志向）を細やかに描く。良い話ばかりではなく、混乱や制度の歪みを批判的に分析し、読者に「被災後」の普遍性を問いかける。レビューでは、「被災地でのベストプラクティス事例」として高評価だが、行政の予算優先が住民の声を無視する問題を指摘する声が多い。章ごとの詳細な要約第1章　津波から逃れてこの章は、津波の襲来直前の地形・歴史的文脈から、避難行動の成功要因を分析。被災の「予兆」と「即応力」に焦点を当て、住民の「津波文化」を描く。

• 大槌町の地形と歴史：大槌町は三陸沿岸の典型的なリアス式海岸で、狭い平野部に漁村が密集。明治29年（1896年）の明治三陸大津波（死者2万人超）や昭和8年（1933年）の昭和三陸大津波（死者3000人超）の記憶が、住民の防災意識を形成。吉里吉里地区は鳴き砂の美しい白砂浜（アイヌ語で「白い砂浜」の意）で知られ、井上ひさしの小説『吉里吉里人』の舞台。震災津波の高さは最大16.1mで、町の9割が浸水。著者は、こうした「常襲地帯」としての歴史が、避難の鍵だったと指摘。
• 津波の常襲地帯としての三陸沿岸：三陸の漁民は、津波を「海の神の怒り」として畏怖。過去の教訓から、防潮堤（震災前で10m前後）と高台移転の伝統あり。著者は、地震発生時の住民の行動をインタビューで追う。例：魚の異常行動（地震前兆として逃げ惑う魚群）を目撃した漁師が、即座に家族を高台へ誘導。
• 町方の人びとはどのように逃げたのか：具体エピソードとして、吉里吉里地区の住民連帯を描く。住民の多くが顔見知りで、学校・寺社・祭りを通じた絆が強い。地震発生後、男たちは総出で生存者捜索・救出を実施。小学校を避難拠点にし、応急処置。死者は最小限（地区全体で数十人規模）。一方、釜石市花露辺集落（漁業集落、死者1人/198人中）では、明治津波後の高台移転が功を奏し、迅速避難で全半壊戸数30%超えても被害を抑えた。著者は「魚の前兆」エピソードを挙げるが、レビューでは「人間の予知は不可能」との疑問も。全体として、歴史的記憶が「逃げる文化」を生んだと結論づけ、被災の「生の脆弱性」を強調。

この章は、津波の恐怖を「逃れて生きる」希望に転換。著者の観察眼が光る部分で、住民の「直感的な連帯」を詳細に記録。第2章　危機から逃れて、避難所を運営する避難直後の混乱から、住民主導の運営へ移行。被災者の自立性を称賛しつつ、心理的負担を描く。吉里吉里の「奮闘記」として、具体的な行動を克明に。

• 被災直後の大槌町の状態：震災後、町はがれき山と化し、道路封鎖・水道断絶。死体処理や食料不足が深刻。著者は4月から現地入り、住民の「生き延びるための即興性」を観察。
• 大槌町の避難所：小学校や公民館を拠点に、女性中心の炊き出し（5か月継続）。ボランティア不要で、住民の「災害対策本部」が機能：がれき撤去、ヘリポート設置、道路啓開、遺体身元確認、警備。吉里吉里地区では、男たちの生存者捜索が避難所の基盤を固め、女性の「内側運営」（食事・衛生）が支えた。著者は、これを「地域原理」の勝利と評価。
• 吉里吉里国奮闘記：地区の通称「吉里吉里国」として、住民の団結を象徴。例：寺社を活用した遺体安置、祭りのネットワークで食料共有。釜石市花露辺では、被災1.5か月で避難所閉鎖、他地区仮設へ移行。著者は、こうした自助・共助が「被災コミュニティの強靭さ」を示すと分析。一方、PTSD的な喪失感（家族離散の悲嘆）も繊細に描写。

この章は、本書のハイライト。レビュアーから「読み応え抜群」との声が多く、行政依存を避けた住民力のモデルケースとして位置づけられる。第3章　三陸沿岸でどのようなまちづくりを実践するのか復興の長期戦へ。住民の理想と行政の現実のギャップを批判的に描き、未来志向の提言で締めくくる。

• 復興まちづくりの課題：震災後、国・県・市の予算消化優先が、住民参加を阻害。巨大防潮堤（14.5m級）の全国一律計画に、著者は疑問を呈す（景観破壊・生業阻害）。三陸の多様な地形に合わせた柔軟性を求める。
• 箱崎地区の復興まちづくり：大槌町の中心部。がれき撤去後の計画混乱を描く。住民の声（高台移転希望）が行政の「堤防優先」に押され、予算争いが露呈。
• 箱崎白浜のまちづくり：吉里吉里近郊の白浜地区。著者が住民と議論し、高台移転・盛土住宅を提案したが、採用されず。例：釜石市花露辺では、公営復興住宅の早期予算化（2011年度内）を実現したが、防潮堤計画が住民の「海と共生」志向を無視。町内会長の分析：「市は予算を使いたがらず、県の堤防事業に依存」。著者は、文化人類学的手法で住民の「暮らしやすさ」を重視すべきと主張。

この章は、希望と挫折の対比。レビューでは「混乱ぶりが生々しい」「巨大土木の暴走を止める難しさ」と評され、制度改革の必要性を示唆。主要エピソードの抜粋

• 吉里吉里の連帯：地震後、住民が「総出」で小学校に集結。男の捜索隊が泥濁流から幼児を救出、女性の炊き出しが「家族の味」を再現。著者の参加観察で、涙の再会シーンを詳細描写。
• 花露辺の奇跡：死者1人の集落。漁師の「魚の逃走」予兆と高台ダッシュが鍵。避難所閉鎖後の仮設移行で、共同体が維持。
• 復興のジレンマ：著者が提案した「盛土+高台住宅」案が却下され、住民の嘆き：「海が見えなくなる堤防で、漁師の誇りが失われる」。行政の「人手不足」と「消化急ぎ」が原因。

結論と評価本書は、被災の「破壊」に対抗する「再生のプロセス」を、文化人類学的に解剖。住民の「恐怖を乗り越える力」を讃えつつ、行政の硬直性を批判し、「住民参加型復興」の重要性を訴える。震災10年超の今も、巨大防潮堤の是非や高台移転の議論に通じる。レビュー平均5.0（Amazon）、読書メーターで「被災本の傑作」との声。徹底的なフィールドワークが、読者に「生きる」実感を与える一冊。著者の言葉：「被災後を生きることは、失ったものを悼みつつ、新たな絆を紡ぐこと」。この本は、災害多発の日本人に、共同体と制度のバランスを問いかける。

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