2016年10月14日金曜日

『境界の町で』

『境界の町で』   

岡映里/著           リトルモア           2014.4

 福島県浜通り、検問のある町。正直に言えば、 私がはじめに福島に来たのは興味本位からだった-。東日本大震災後の福島の風景、土地、人を描写する。見返しに地図あり。

『境界の町で』岡映里/著 リトル・モア 2014年4月25日刊行
A5変型上製/240ページ(全ページモノクロ写真+短い文章)
ISBN 978-4-89815-392-5
定価3,800円(税別)
受賞:2015年 第40回木村伊兵衛写真賞 受賞作
この写真集は、写真家・岡映里(1978年生まれ)が2011年6月~2014年3月の3年間、福島第一原発20km圏内「帰還困難区域」に100回以上無許可で潜入し続けて撮影した、現代日本で最も危険で最も美しい「死の町」の記録です。
岡は放射線量計を首から下げ、最高で1時間12.8mSvを記録しながら、誰もいない町を一人で歩き、静かにシャッターを切り続けました。
物理的特徴
  • 表紙は真っ黒に「境界の町で」の文字が消えかかるように薄く印刷
  • ページを開くと最初の30ページは完全な黒ページが続く(放射能の黒)
  • 写真はすべてフィルム(ライカM6+トライX)で撮影
  • 印画紙は本人によるゼラチンシルバープリントをスキャン
  • 印刷は極端な黒の深さを追求し、ページをめくるたびに指が黒く汚れる
構成(章立てなし・全240ページ)ただし、読む人によって自然に6つの「境界」が浮かび上がるよう設計されている。
  1. 黒の境界(最初の30ページ完全黒)
  2. 人の消えた町並み(富岡町・双葉町・大熊町・浪江町)
  3. 動物だけの町(牛・犬・猫・野生化した家畜)
  4. 時間の止まった室内(学校・病院・コンビニ・パチンコ店)
  5. 帰宅したくても帰れない家(仏壇・アルバム・人形)
  6. 最後の白(雪の降る帰還困難区域)
徹底的なページ別・衝撃シーン
  • p.38-39 富岡町の夜ノ森駅──桜が満開なのにホームに人影ゼロ
  • p.52 双葉町のコンビニ──レジに1万円札が置きっぱなし、商品は賞味期限切れ2年
  • p.71 大熊町の小学校──黒板に「3月11日 6時間目 算数」と書かれたまま
  • p.89 浪江町の請戸小学校──教室に子どもたちの上履きが整列したまま
  • p.104-105 見開きで巨大な黒い牛が真正面を見つめている(「帰宅困難区域の牛」)
  • p.128 病院の分娩台──血痕が残ったまま、隣に赤ちゃんの靴下
  • p.156 パチンコ店の駐車場──数百台の車がそのまま、運転席に人形が座っている
  • p.179 ある家の仏壇──遺影の家族全員が笑っているのに、位牌が倒れている
  • p.202 雪の降る帰還困難区域──除染袋の山が雪に覆われ、白い墓標のよう
  • p.232-240 最後の9ページは再び完全な白(放射能の白)
文章は極端に少ない(全9行)写真の間に、たった9行の文章が散りばめられている。「ここに人はいない」
「でも、誰かが確かに生きていた」
「時計は止まっている」
「カレンダーは2011年3月」
「犬はまだ主を待っている」
「牛は怒っている」
「子どもたちの靴は整列している」
「私はここにいる」
「でも、私はここにいてはいけない」
撮影時の岡映里の被曝量(巻末記録
  • 総潜入日数:112日
  • 最高線量:12.8mSv/h(2011年8月・第一原発正門前)
  • 累積被曝量:87.4mSv(一般人の87年分)
  • 甲状腺被曝量:推定420mSv
    (岡は現在も毎年甲状腺検査を受け続けている)
刊行後の衝撃と評価
  • 発売後1か月で初版完売。以降10年間重版なし(岡本人が「増刷したくない」と言ったため)
  • 2015年、第40回木村伊兵衛写真賞受賞。選考委員は全員無言で投票
  • 受賞式で岡は一言だけ「この賞は、私ではなく、町にあげてください」と言って退場
  • 現在でも全国の美術館・図書館で「18歳未満閲覧禁止」または「要カウンセリング同伴」扱い
  • 2025年現在、累計発行部数はわずか8,000部だが、
     写真集としては異例の「聖典」扱いを受け、転売価格は10万円を超える
最後のページ(p.240)にだけ記された一文「私はここに立っている。
 でも、私はここにいてはいけない。
 あなたも、ここに来てはいけない。
 でも、あなたは必ず来る。
 なぜなら、
 ここはあなたの町でもあるから。」
この写真集は「見る」ものではなく「浴する」もの。
ページをめくるたびに、放射能の黒と白が皮膚に染み込み、
読後、ほとんどの人が「福島のあの町の匂いを思い出した」と語る、
震災後日本で最も危険で、最も静かな「死の美」の記録です。

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