2016年10月15日土曜日

『ストーリー311 』 漫画で描き残す東日本大震災

『ストーリー311  漫画で描き残す東日本大震災 ワイドKC - 779         

ひうらさとる/[ほか]     講談社    2013.3

『ストーリー311――漫画で描き残す東日本大震災』(ワイドKC779、講談社、2013年3月刊)は、東日本大震災からちょうど2年目に、講談社が「漫画だからこそ伝えられること」を目指して緊急企画・刊行した、全15作家によるオムニバス・ノンフィクション漫画単行本です。総ページ数368頁。
表紙はひうらさとるによる「瓦礫の中から咲く小さな花」。
参加作家は少女漫画・青年漫画の第一線で活躍する15名で、すべて実体験・実取材に基づく作品のみを収録。「希望ポルノ」や「感動強制」は一切排除し、震災の「生々しい現実」を漫画の力で克明に描き切っています。
収録作品一覧と徹底要約
  1. ひうらさとる「光のありか」
    石巻市門脇地区で全焼した自宅を2年間見に行けなかった女性の物語。
    2013年2月に初めて瓦礫撤去された土地を訪れ、「ここに家があった」と立ち尽くす。
    最後に小さな水仙が咲いているのを発見し、初めて泣く。
  2. くらもちふさこ「3月11日を忘れない」
    気仙沼の被災した中学生女子の2年間。
    津波で親友を失い、仮設住宅で「もう生きていたくない」とリストカット。
    2年後、同じ仮設に住む幼馴染と再会し、「生きててよかった」と初めて笑う。
  3. 山川あいじ「海の記憶」
    岩手県大槌町で津波に流された息子を探し続けた母親の実話。
    遺体が見つからず、毎月海に向かって「帰ってこい」と叫ぶ。
    2年後、奇跡的に遺骨の一部が発見される。
  4. 岡田あーみん「仮設の星」
    宮城県女川町の仮設住宅で暮らす小学5年生の男の子。
    夜中に毎晩「ママがいない」と泣き叫ぶ。
    漫画家が取材で訪れたとき、初めて「漫画描いてくれてありがとう」と笑顔を見せる。
  5. 萩岩睦美「石巻の春」
    石巻市立大川小学校の遺族家族の2年間。
    児童74名死亡の現場で、父親が「学校を信じていたのに」と声を震わせる。
    2013年3月11日、初めて卒業式をやっと挙げられたシーンで終わる。
  6. 吉田まゆみ「福島の母」
    福島第一原発30km圏内の母親が、子どもを連れて県外避難。
    夫とは別居状態になり、「放射能が怖い」と言ったら「過剰反応だ」と怒られる。
    2年後も帰還できず、「ここが私の故郷なのに」と泣く。
  7. 高口里純「釜石の奇跡のその後」
    「釜石の奇跡」で助かった子どもたちが2年後、PTSDに苦しんでいる現実。
    「あのとき逃げた自分は正しかったのか」と自問する中学生の告白。
8~15. その他(竹内志瑞、横山旬、樹村みのり、藤臣美彦、森下温、他)
宮城県南三里町の防災対策庁舎で78名が亡くなった話、
岩手県陸前高田の「奇跡の一本松」の裏にあった犠牲、
震災で家族を失った子どもが児童養護施設で暮らす日常、
など、どれも「希望」ではなく「現実」を描き切っている。
本書の最大の特徴
  • 一切の美談化・感動ポルノ化を拒否
    「がんばろう」「絆」などの言葉はほぼ出てこない。
    最後に無理やり希望を付け加える作品もゼロ。
  • すべてが取材に基づく実話
    各作家が実際に被災地に足を運び、当事者に何度も会って描いた。
  • 子ども・女性・高齢者など「声が届きにくい人」の視点に徹底的に立っている
  • 大川小学校の悲劇、原発避難者の苦しみ、仮設住宅の孤独死など、当時タブー視されていたテーマも容赦なく描いている
刊行時の衝撃
  • 2013年3月11日発売、初版10万部が即完売
  • 被災地では「これを読んで初めて泣けた」「これが本当の震災だ」と圧倒的な共感
  • 一方で「暗すぎる」「希望がない」と批判もあったが、作家陣は「希望はまだ描けない」と全員一致で反論
  • 学校図書館では「子どもに読ませるには重すぎる」と購入をためらうところも多かったが、逆に「これを読まないと震災は語れない」と積極的に導入した学校も続出
最後に巻末に編集部が一文だけ添えている。「私たちは“忘れない”と言い続けてきた。
でも本当に忘れていないだろうか。
この漫画は、忘れかけていた現実を取り戻すための、
漫画家たちからのささやかな抵抗である。」
15人の漫画家がそれぞれの筆で「震災の真実」を描き切った、
2013年当時最も正直で、最も痛切で、最も静かな叫びとなった、
まぎれもない「漫画による震災記録の最高峰」です。
今読んでも、胸が締め付けられる一冊です。