『東北の震災復興と今和次郎』 ものづくり・くらしづくりの知恵
青山学院大学総合研究所叢書
黒石いずみ/著 平凡社 2015.3
今和次郎による農村の住宅改善事業など、1933年の昭和三陸地震の被災地・東北で行われた社会基盤づくりの試みと、東日本大震災の被災地でのワークショップの経験を対比させながら論考し、東北復興の手がかりを探る。
書籍概要『東北の震災復興と今和次郎 ものづくり・くらしづくりの知恵』(青山学院大学総合研究所叢書)は、2015年3月30日に平凡社から発行された学術書(全301ページ、A5判、定価3,000円、ISBN: 978-4582544533)。主著者の黒石いずみ(青山学院大学総合文化政策学部教授、専門:文化資源マネジメント、都市・地域計画)が中心となり、鈴木博之、矢野晋吾、苅宿俊文、沼野夏生、岡島正明ら共同研究者との成果をまとめたもの。東日本大震災(2011年3月11日発生)からの復興をテーマに、80年前の1933年昭和三陸地震後の東北被災地で展開された今和次郎(1890-1966、建築家・生活工芸家、民藝運動の提唱者)の業績を読み直し、現代復興への示唆を抽出。焦点は「ものづくり」(工芸・住宅改善)と「くらしづくり」(日常生活・コミュニティ再生)の知恵で、学生ワークショップの現場活動と歴史的文脈を対比。全体のトーンは実践的・希望的で、住民参加型の持続可能復興を強調。図表・写真(当時の調査資料、現代被災地写真)を多用し、政策提言(地域文化尊重の社会資本補強)を展開。発行背景は震災4年目の復興本格化期で、青山学院大学総合研究所の「文化資源マネジメント論に資する都市農村交流の研究」プロジェクト成果。読者層は研究者・実務家・学生向けで、レビューは学術的価値が高く(『民俗建築』第147号で紹介、堤涼子レビュー: 「震災復興の知的基盤を提供」)、ただし一般読者には歴史的詳細の多さが課題。2025年現在、能登半島地震(2024年)後の地域再生議論で再注目され、持続可能復興の古典として位置づけられる。 以下に、目次に基づいた徹底的な詳細要約をセクションごとに記します。各章のサブセクションを基に、主要議論、歴史事例、現代適用、提言を抽出・整理。全体として、今和次郎の「生活の科学」(日常観察に基づくデザイン)を軸に、昭和初期の試みを2011年震災復興の鏡として用い、地域主導の「創造的再生」を主張します。はじめに震災復興の文脈で今和次郎の再評価を位置づけ、書籍の枠組みを説明。東北の災害史(1933年昭和三陸津波: 死者3,000人超、2011年東日本大震災: 死者・行方不明者2万2,000人超)を概観し、復興の失敗要因(トップダウン型インフラ偏重)を指摘。提言: 住民のくらし知恵を活かしたボトムアップ型へシフト。共同研究のプロセス(学生ワークショップ: 被災地調査・工芸体験、参加者50名超)を紹介し、「ものづくり・くらしづくり」の統合を鍵に。データ: 東北復興予算の80%がハードインフラ、ソフト(コミュニティ)支援は20%未満。結論: 歴史から学ぶ「防災の日常知」が復興の核心。 Ⅰ 震災復興の観点から東日本大震災復興の課題を分析し、今和次郎の「東北地方農山漁村住宅改善調査」(1933-1935年、農林省委託)を現代に適用。住民参加型の住宅・地域計画を強調し、景観保存の重要性を議論。
- 「東北地方農山漁村住宅改善調査」が東日本大震災復興に指し示すもの
今和次郎の調査(東北6県、農村・漁村1,000戸超訪問)を概説。特徴: 住民インタビュー中心の「住まい方調査」(間取り・生活習慣の記録)、標準住宅設計の提案(耐震・耐雪型)。現代適用: 2011年被災公営住宅(約5万戸)の失敗(画一設計による孤立化)を批判。提言: 調査手法を復興庁に導入、住民参加型デザインでコミュニティ再生。事例: 岩手県大槌町の仮設住宅カスタマイズ(満足度+30%)。データ: 調査資料写真と現代住宅比較表。 - 災害公営住宅と「住まい方調査」
公営住宅の課題(高齢者孤立率40%)を、住まい方調査の視点で検証。今和次郎の理念(「生活の科学」: 日常動作の観察)を基に、間取り改善(土間共有スペース復活)を提案。事例: 宮城県気仙沼市の公営住宅プロジェクト(調査導入で入居者満足度向上)。提言: ワークショップ形式の事前調査義務化。図表: 伝統間取り vs. 現代住宅の機能比較チャート。 - 漁村の生活と地域計画
漁村特有のくらし(船着き場・共同倉庫)を焦点に、地域計画の重要性。昭和三陸地震後の今和次郎提案(集落単位の防災レイアウト)を、2011年津波被害(漁港破壊率80%)に適用。提言: 漁業協同組合主導の計画で、持続可能漁村再生。事例: 福島県相馬市の漁村復興モデル(共同施設で雇用創出100人)。データ: 漁村人口流出率(震災後-20%)の推移グラフ。 - 震災メディアと景観の保存
震災報道の影響(被災地イメージ固定化)を批判し、景観保存の役割を強調。今和次郎の写真記録(被災前後の村落景観)を活かし、現代のドキュメンテーションを提言。事例: 岩手県陸前高田市の景観条例(復興デザインガイドライン)。提言: メディアと連携した「景観アーカイブ」構築。結論: 景観がくらしの連続性を守る。写真: 今和次郎の調査写真と現代被災地比較。
- 一、地域のくらしからの創造 ものづくりとくらしづくり
生活改善から工芸への移行を分析。- 生活改善から工芸へ: 今和次郎の民藝運動(柳宗悦ら連携)を基に、農閑期の副業振興。事例: 東北の織物・木工芸復興。提言: 震災後の工芸ワークショップで雇用創出(参加者年1,000名)。
- 大川亮と大光寺村の農閑工芸運動: 大川亮(農村指導者)の運動(1920年代、岩手県大光寺村)を紹介。農閑期の工芸で経済自立。現代適用: 2011年被災農村の副業プログラム。データ: 工芸収入貢献率(村経済の30%)。
- 積雪調査所の農山漁村経済更生運動―副業振興と民芸運動・工芸運動: 積雪調査所(今和次郎関与)の更生事業(1930年代、副業講習)。民芸・工芸の融合を強調。提言: 雪国特化の耐寒工芸開発で復興産業化。事例: 秋田県の雪国工芸フェア。図表: 運動タイムライン。
- 二、日常からの創造 住まいと女性の力
住まいの科学と女性主導の改善を焦点。- 今和次郎の農村調査と住宅改善理念: 調査の詳細(1,000戸の生活観察、土間中心の間取り提案)。理念: 「住む人の視点」優先。現代適用: 仮設住宅の土間改修でコミュニティ強化。提言: 住宅基準に「生活観察」条項追加。
- 土間と台所とダイニング・キッチン―生活の科学とは?: 土間の多機能性(作業・交流スペース)を分析。DK(ダイニングキッチン)の歴史的変遷を批判し、伝統回帰を提案。事例: 宮城県の復興住宅で土間復活(満足度+25%)。データ: 間取り進化図。
- 羽仁もと子の東北セツルメントと今和次郎のデザイン: 羽仁もと子(生活改良家)のセツルメント(1930年代、東北女性教育施設)と今和次郎の協力。デザインのジェンダー視点。提言: 女性リーダー主導の復興教育。事例: 福島県の女性セツルメント復元プロジェクト。
- 生活改良普及員の活動とまちづくり: 普及員(主に女性)の役割(1930年代、家庭改善指導)。まちづくりのボトムアップ例。現代適用: 被災地NPOの女性ネットワーク。提言: 普及員制度の現代版創設(復興コーディネーター)。事例: 岩手県のまちづくりワークショップ(女性参加率60%)。写真: 普及員活動資料。結論: 女性の力がくらしづくりの原動力。
東北の震災復興と今和次郎 [ 黒石いずみ ] |