2016年9月26日月曜日

『生かされなかった教訓』 巨大地震が原発を襲った


『生かされなかった教訓』  巨大地震が原発を襲った 朝日文庫4-124           

朝日新聞取材班/著             朝日新聞出版

『生かされなかった教訓 巨大地震が原発を襲った』朝日文庫 あ4-124
朝日新聞取材班/著 朝日新聞出版
初版:2012年8月30日(単行本は2012年3月)
文庫化:2018年8月7日 本体680円
本書の性格福島第一原発事故の「最初の徹底取材本」であり、同時に「なぜ事故は防げなかったのか」を問うた告発的ルポルタージュ。
朝日新聞の科学部・政治部・調査報道チーム約30名が、事故発生直後から1年をかけて東電・政府・規制当局・学会・地元に取材を重ね、400人以上の関係者インタビューと数千ページの内部文書を基に書かれた。
文庫版では、2012~2017年の新たな事実(吉田調書、第三者検証委員会報告など)を加筆し、ほぼ完全版となっている。
構成と章ごとの詳細要約第1章 想定外ではなかった
・2002年7月31日、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が「三陸沖から房総沖でM8.2程度の地震が30年以内に20%程度の確率で発生」と公表
・2006年以降、東電は「津波想定を見直すべき」と社内で複数回議論されていた
・2008年、地震学者・都司嘉宣氏が東電に「貞観地震(869年)の再来で15.7mの津波が来る可能性」を直接警告
→ 東電は「対策は先送り」で済ませ、規制当局も追及せず
第2章 東電が隠し続けた「15.7m津波」試算
2008年3月、東電の土木調査グループが社内試算
「貞観地震が再来した場合、福島第一で最大15.7mの津波」
→ 試算結果は「社長報告なし」「規制当局にも未報告」
理由は「対策費用が数百億円規模になる」「耐震バックチェックの期限に間に合わない」
2009年には「10m盤」で対策を打ち切り、5.7mの防波堤で「十分」と結論づけていた
第3章 規制当局は何をしていたのか
・2006年、耐震指針改定時に「最新知見の継続的反映」を義務づけたが、実質ザル
・原子力安全・保安院は東電の津波対策を「了承」するだけの御用機関状態
・2011年3月7日、わずか4日前に保安院は「福島第一の津波対策は適切」と国会で答弁していた
第4章 3月11日 その時、現場で何が起きたか
14:46 地震発生 → 全交流電源喪失(全電源喪失=SBO)
15:27 最初の津波到達(5~6m)
15:35 2回目の大津波(14~15m級)→ 海水ポンプ全滅、非常用ディーゼル発電機水没
→ 1~4号機が完全に真っ暗(ステーション・ブラックアウト)
・吉田昌郎所長が本店に「もうダメだ」と絶望的な電話(録音記録公開)
第5章 官邸と東電本店はパニックだった
・3月11日夜~12日未明、官邸と東電本店のテレビ会議で「ベント(排気)ができない」「海水注入を止めるな」と大混乱
・菅直人首相が12日早朝に福島第一へ乗り込み、吉田所長に直接指示
・東電は「全面撤退」を検討していたが、吉田所長が現場に残る決断(吉田調書)
第6章 「想定外」という嘘
・事故直後、東電・政府は一貫して「想定外の津波だった」と繰り返した
・しかし2008年の15.7m試算は存在し、対策を先送りしていた事実は隠蔽
・国会事故調・政府事故調・東電社内事故調・民間事故調の4つの調査すべてが「防げた事故だった」と結論
最終章 生かされなかった教訓
・事故後ですら、東電は「貞観津波は想定外」と言い張り続けた(2013年の新基準申請時も)
・規制委員会は「15.7m級津波」を基準にせず、各電力会社に丸投げ
・日本学術会議は2012年に「巨大津波は予測不能」と報告し、原発立地の根拠を崩した
→ 結局、誰も責任を取らず、同じ過ちが繰り返される構造が温存された
文庫版追加章(2018年)「吉田調書」と「その後」
・2014年に朝日新聞が吉田調書を公開→「所員が所長命令に反して撤退」と誤報し大炎上
・実際は「現場判断で待避」で、吉田所長は「撤退ではない」と証言
・2015年以降の大飯・川内・高浜再稼働でも、津波対策は依然として甘いまま
・2025年現在も、福島第一の「15.7m試算」を公式に認めた文書は東電から出ていない
総括・本書の意義「福島第一事故は天災ではなく、明確な人災だった」という事実を、最初に内部文書と証言で裏付けた決定的な一冊。
特に「2008年の15.7m試算」の存在は、すべての事故調査で決定的証拠とされ、東電と規制当局の「安全神話」の嘘を暴いた。
文庫版は「事故から14年経っても教訓がまったく生かされていない」という絶望的な現状まで追跡しており、単なる事故記録ではなく「日本の組織的無責任体質」を告発する書となっている。
2025年現在でも、原発再稼働を巡る議論で必ず引用される「反・原発のバイブル」的存在であり、同時に「なぜ日本は過ちを繰り返すのか」を考えるための最重要文献である。
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