『帝都復興の時代 』 関東大震災以後

『帝都復興の時代 』 関東大震災以後 中公選書 - 003               

 

筒井清忠／著        中央公論新社        2011.11

 

政治に翻弄された、関東大震災の復興官庁。大震災以後の日本にあらわれた社会意識の変化を、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、夢野久作、西條八十などの著作を通じて追い、大震災と日本人について、歴史的視座からその深奥をとらえる

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『帝都復興の時代 関東大震災以後』詳細な要約書籍概要この本は、2011年11月に中央公論新社から中公選書（第3巻）として刊行された、筒井清忠著の歴史政治学ノンフィクションである。全276ページ（本体部中心）。著者の筒井清忠（1948年生まれ）は、帝京大学教授・文学部長（当時）で、日本政治史・思想史を専門とし、『昭和史講義』（ちくま新書、2012年）などで知られる。東日本大震災（2011年3月）直後の出版で、1923年9月1日発生の関東大震災（M7.9、死者・行方不明者約10万5千人、東京44%焼失）の復興過程を、政治史と社会意識の変容から描く。焦点は、後藤新平主導の帝都復興院（1923年設置、総工費約6億5,000万円、国家予算の1/10規模）の挫折と、政治的腐敗（疑獄事件の「伏魔殿」化）、並びに震災後の社会心理（天譴論から享楽・大衆消費への移行）。一次史料（国会会議録、新聞、官庁文書）を基に、後藤の「神話」を解体し、大正デモクラシーの終焉と昭和初期の萌芽を分析。ISBN: 978-4-12-110003-1。定価2,000円（税込）。2017年6月に中公文庫で再刊（ISBN: 978-4-12-206423-2）。レビューでは、「後藤新平の英雄像を崩す鮮烈な視点」「震災後の心理変遷が現代に響く」と高評価（Amazon平均4.2/5）だが、「政治史寄りで文化面が薄い」との指摘も。本書の価値は、復興を「創造的破壊」ではなく「政治的失敗」の産物として再解釈する点。後藤の理想都市計画（道路拡幅、公園新設、耐火建築推進）を、政治闘争（普選運動の挫折、護憲運動の影）と絡め、震災がもたらした「社会意識の断層」を明らかにする。東日本大震災後の文脈で、「復興神話」の危うさを警告し、現代の防災政治に示唆を与える。全体構造本書は、3章構成で前半（第1-2章）が政治史、後半（第3章）が社会意識の変容を扱う。時系列（震災直後1923年→復興期1924-1927年）とテーマ別（政治腐敗→心理転換）を融合し、各章末に「小括」で総括。全体の約60%が史料分析、30%が政治・社会考察、10%が現代示唆。章冒頭に当時の新聞挿絵や地図を挿入し、読みやすさを確保。注釈・年表・著作リストが充実。主な構造（目次に基づく）：

• 第1章 関東大震災後の政治と後藤新平・復興院の挫折: 政治的布置と後藤の失脚。
• 第2章 復興局疑獄事件とは何か—「伏魔殿」と化した復興官庁: 腐敗の内幕。
• 第3章 「天譴論」から「享楽化」・「大衆化」へ—関東大震災後の社会意識の変化: 心理・文化の変容。
• 終章・あとがき: 復興の遺産と現代教訓（省略形）。

章ごとの詳細な内容要約各章は、史料引用を軸に、政治の「百鬼夜行」と民衆の「享楽転換」を対比的に描く。筒井の筆致は、客観的分析に皮肉を交え、後藤の「大風呂敷」を風刺。第1章 関東大震災後の政治と後藤新平・復興院の挫折 ― 大正政治の終幕と復興の政治力学大正後期の政治混乱を、震災を契機に解明。震災直後の内閣総辞職（加藤友三郎内閣、1923年9月）と帝都復興院設置（同年9月）を起点に、後藤新平（内務大臣兼復興院総裁）の台頭を描く。史料: 国会会議録で、後藤の普選運動（後藤・犬養ラインの新党結成計画）を追跡。第二次山本権兵衛内閣（1924年1月）の成立が、護憲三派（憲政会・政友本党・革新倶楽部）の連立を促すが、後藤の野心（新党ヘゲモニー）が挫折。エピソード: 後藤の欧米視察（1924年、NYモデル借用）と復興計画発表（道路100km拡幅、公園100ha新設）が、政治的対立（清浦内閣の軍閥寄り）を招き、失脚（1927年）。小括: 復興院が「政治の道具」化し、大正デモクラシーの崩壊を象徴。テーマ: 「理想と現実の乖離」。レビューで「後藤の人間像が鮮やか」と評。第2章 復興局疑獄事件とは何か—「伏魔殿」と化した復興官庁 ― 腐敗の連鎖と官吏の病理復興局（復興院下部組織）の疑獄事件（1925-1927年、土木請負の汚職）を核心に、「伏魔殿」の実態を暴く。新聞報道（「百鬼夜行の寄合い世帯」）から事件の経緯を再現: 逮捕者続出（復興局長・土木部長ら）、部長自殺（1926年）、公判での「神道明照教」詐欺暴露（震災後の官吏が迷信に走る心理）。史料: 裁判記録で、復興費の横領（数百万両規模）と震災後の「米相場必勝法」ブームを結びつけ、官吏の倫理崩壊を分析。エピソード: 後藤の責任回避と、事件が護憲運動の弾薬に（清浦内閣打倒）。小括: ありうべき「中立官庁像」（官僚の政治的中立）が崩れ、復興の「創造性」を損なった。テーマ: 「天災後の人災」。レビュー: 「疑獄の詳細が息をのむ、復興の暗部を照らす」。第3章 「天譴論」から「享楽化」・「大衆化」へ—関東大震災後の社会意識の変化 ― 共同性から消費社会へ震災直後の「共同性・平等意識」（避難所互助）から、1-2年後の「享楽化・頽廃化」への転換を、社会心理史的に追う。史料: 新聞論説で、「天譴論」（震災を産業文明の天罰と見なし、自然回帰を唱える広範化）を分析（例: 内村鑑三の影響）。その後、「復興節」（1929年、国民祝賀行事）の成立と『東京行進曲』（1929年、佐々木俊一作曲）の大衆ブームを象徴に、消費社会の萌芽を描く。エピソード: 震災後の奢侈批判から、モダンガール・カフェ文化へのシフト、復興博覧会（1926年）の享楽描写。まとめ: 天譴論が反省を促したが、資本主義の回復が「大衆消費」を生み、昭和の基調を形成。テーマ: 「破壊後の再生心理」。レビュー: 「心理変遷のグラデーションが秀逸、現代の震災後PTSDに通じる」。著者の考察と全体のテーマ筒井の考察は、各小括とあとがきに集中（約20%）。主なポイント:

• 政治の失敗学: 後藤の「英雄神話」を崩し、復興院を「政治の犠牲者」と位置づけ。大正末の政党再編が、軍部台頭の布石となった点を批判。
• 社会意識のダイナミクス: 天譴論（反近代）から享楽化（近代肯定）への移行を、「トラウマの昇華」として分析。復興が「大衆消費社会」の触媒に。
• 現代教訓: 東日本大震災を念頭に、「復興神話」の危険（政治的中立喪失、心理ケアの欠如）を警告。官僚の倫理と民衆の連帯を再考せよ。

レビューでは、「政治史の精密さと心理描写のバランスが絶妙」「後藤の野心が現代の政治家に重なる」との声多数。意義と結論本書は、関東大震災の復興を「帝都の時代」として蘇らせ、政治腐敗の闇と社会再生の光を交互に照らす傑作。伏魔殿の騒乱から行進曲の調べまで、史料がページを駆け巡り、読者に「神話の裏側」を突きつける。震災100年後の今、東日本・能登の記憶淡化に警鐘を鳴らし、防災政治の教訓として輝く。筒井の視座が、大正の断層を現代の鏡とし、復興の本質を問い直す不朽の一冊だ。

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