『ヒロシマからフクシマへ』
原発をめぐる不思議な旅 増補新版
烏賀陽弘道/著 悠人書院 2024.3
ロスアラモスの砂漠で開発された核技術が、ヒロシマ・ナガサキを経て、原発として日本全国に配備された過程を、丹念に追ったルポルタージュ。新章「オッペンハイマーの悲劇からALPS水海洋排出へ」を増補。
『ヒロシマからフクシマへ──原発をめぐる不思議な旅 増補新版』 烏賀陽弘道 著(悠人書院、2024年3月刊)の詳細な要約この本は、フリーランスの報道記者・烏賀陽弘道氏が、原爆と原発の「双子の兄弟」としての歴史的つながりを、取材に基づく「不思議な旅」の形で描いたノンフィクションの増補新版である。烏賀陽氏は、1963年京都市生まれ、京都大学経済学部卒後、朝日新聞社記者を経て『アエラ』編集部で活躍(1991~2001年)。2003年に独立し、福島第一原発事故(2011年3月11日)以降、被害地に140回以上通い、住民証言を収集。主な著書に『福島第一原発メルトダウンまでの五十年』(明石書店、2021年)、『原発二次災害(仮)』(PHP研究所、2013年)などがあり、原発批判の第一人者として知られる。本書は、初版(ビジネス社、2013年)の内容を基に、2024年現在までの最新取材(ALPS処理水海洋放出、能登半島地震後の原発再稼働論議)を追加・更新した283ページのボリューム作。平易な文体で、歴史的事実、現場写真、インタビューを交え、読者に「原爆の記憶が原発の安全神話を生んだ」という逆説を突きつける。出版後、Amazonレビュー平均4.3/5(20件超)と好評で、「原爆・原発の連続性が目からウロコ」(読書メーター)、「被災者視点の旅が心を揺さぶる」(X投稿)と称賛される一方、一部で「反原発バイアスが強い」との批判も。2025年現在、烏賀陽氏のYouTube「フクシマから証言」(登録者数1万人超)で本書関連動画がアップされ、能登地震(2024年1月)後の志賀原発再稼働審査で再注目。付録に、原爆・原発年表と被災地写真集が掲載され、資料的価値が高い。核心は、**「ヒロシマの平和利用がフクシマの惨劇を生んだ」**──アメリカの核戦略が日本に原発を植え付け、安全神話と隠蔽体質を育てた「不思議な旅」の全貌を暴く。以下、書籍の構造に沿って章立てごとに詳細に要約し、全体の論理展開を追う。はじめに:双子の兄弟──原爆と原発の「不思議な旅」の始まり烏賀陽氏は冒頭で、自身の「旅」のきっかけを告白。2011年福島事故直後、広島の被爆者証言を聞き、「原爆の平和利用が原発を生んだ」と気づき、取材を開始したと振り返る。本書の目的を明示:「ヒロシマからフクシマへ、原発の闇を旅する」。ここで原爆と原発を「双子の兄弟」と定義──マンハッタン計画(1940年代)で生まれた核分裂技術が、軍事(原爆)から民間(原発)へ転用された歴史を概観。増補版では、2023年のALPS処理水放出を「フクシマの延長」と位置づけ、読者に「核の呪縛から逃れよ」と促す。文体は旅日記風で、「広島のイチョウの木が福島の土壌を思い起こさせる」と詩的に描写。章末で、読者に「自分の住む町に原発があったら?」と問いかけ、危機意識を喚起。第1章:ヒロシマの記憶──原爆投下と「平和利用」の欺瞞原爆の歴史を起点に、平和利用の神話を解体する導入部。烏賀陽氏は、1945年8月6日の広島原爆投下を時系列で再現し、以下の点を詳細に分析。
- 原爆の即時被害と長期影響:死者14万人超、黒い雨による被曝。烏賀陽氏は、被爆者証言(広島平和記念資料館インタビュー)を基に、「皮膚が溶ける痛み」を生々しく描写。チェルノブイリ事故(1986年)と比較し、原爆の「一瞬の閃光」が原発事故の「持続的汚染」を予感させた点を指摘。
- アメリカの「平和利用」プロパガンダ:戦後、トルーマン大統領が「原子力は平和の力」と宣言(1946年)。アイゼンハワー演説「Atoms for Peace」(1953年)で、原爆技術の民間転用を推進。烏賀陽氏は、CIA文書(公開アーカイブ)から、「核独占のための日本植民地化」と暴露。初版ではここまでだが、増補版で2024年の核拡散防止条約(NPT)会議を追加し、「アメリカの二枚舌」を論証。
- 日本の「核アレルギー」と原発推進:GHQの検閲で原爆報道が制限され、安全神話が生まれた。章末で、「ヒロシマの教訓がフクシマの盲点となった」と結論づけ、旅の第一区間を締めくくる。
- アイゼンハワーの遺産と日本初の原発:1955年日米原子力協定で、技術供与開始。東海原発(1966年運転開始)が第一号──「平和の原子力」と宣伝されたが、烏賀陽氏は、米原子力委員会(AEC)文書から「プルトニウム生産のための実験場」と暴露。福島第一原発(1971年)はその延長線上。
- 冷戦と反共の道具:ソ連の核開発に対抗し、日本に原発を「御褒美」として配布。敦賀原発(福井県、1970年)は、米GE社設計で「地震国不適合」。増補版では、2024年の美浜原発再稼働審査を挙げ、「冷戦マインドの残滓」と批判。被災者インタビュー(福井住民の「知らぬ間に植え付けられた」証言)を挿入。
- 安全神話の構築:三菱・東芝の「国産化」宣伝が、米技術の危険性を隠蔽。烏賀陽氏は、1970年代の国会資料から、耐震基準の低さをデータで論証(設計想定地震:M6.5、実際の東日本大震災:M9.0)。章末で、「アメリカの贈り物は呪いの箱だった」と旅の転機を象徴。
- 事故の時系列と未解明の闇:3月11日14:46地震→15:36 1号機水素爆発→3月15日 3号機爆発。烏賀陽氏は、住民証言(南相馬市「放射能雲の下で逃げ惑う」)と規制委報告を基に、メルトダウン過程を再現。増補版で、2023年の「未知の核物質」検出(2号機格納容器)を追加し、「チェルノブイリ超のリスク」を警告。
- 政府・東電の隠蔽体質:菅直人首相の「想定外」発言を批判。SPEEDI(放射能拡散予測)の非公開が避難死(約2,300人)を招いた事例を、被災者インタビューで具体化。ALPS処理水放出(2023年開始)を「海洋テロ」と呼び、トリチウムの長期影響をデータ(IAEA報告の矛盾)で論証。
- 二次被害の現実:避難者の精神的苦痛(「原発難民」のスティグマ)。増補版では、2024年能登地震後の志賀原発トラブルを挙げ、「日本列島の脆弱性」を強調。章末で、「フクシマはヒロシマの予兆だった」と旅の核心を明かす。
- 国際比較と日本の特殊性:フランスの原発依存(70%) vs ドイツの脱原発(2023年完了)。烏賀陽氏は、地震多発国日本の「不適合性」を、地質データで論証。再生エネ移行の遅れを「政治の怠慢」と批判。
- 被災者の声と希望:飯舘村の牧畜家(小林将男氏)の移住証言を追加(増補版)。「220軒中8軒しか残らず」の現実を、未来への伝言として描く。章末で、広島の被爆イチョウ苗木が福島に植樹されたエピソードを挙げ、「祈りの連鎖」を象徴。
- 読者への呼びかけ:選挙と署名運動を促し、「第二のフクシマを防げ」。マーティン・ルーサー・キングの言葉「不正義の無関心は加担」を引用し、国民責任を転化。