『屍の街』 大田洋子原爆作品集 新版
大田洋子/著 小鳥遊書房 2024.8
1945年、疎開先の広島で原爆に被災以後、原爆症発病の恐怖と闘いながら原爆の惨状を主題とする小説を発表し続けた大田洋子。表題作をはじめ、「半人間」など全12編を収めた原爆作品集。長谷川啓の新版解説付き。
『屍の街 大田洋子原爆作品集 新版』(大田洋子著、小鳥遊書房、2024年8月刊)は、広島で被爆した作家・大田洋子(1903-1963)が原爆の惨禍とその後遺症を克明に描いた原爆文学の傑作を集めたアンソロジーの新版です。本書は、2020年に刊行された同タイトルの上製版を並製に変更し、解説を更新、価格を3,000円(税込)に改定したものです。収録作品は12編で、原爆投下直後の広島の惨状や被爆者のトラウマ、戦後日本の社会状況を背景に、鋭い感性と筆力で綴られた作品群は、核兵器の非人道性と戦争の愚かさを訴えます。以下に、本書の詳細な要約を章構成や作品ごとの内容、背景、意義を中心に解説します。 --- ### **本書の概要と背景** 『屍の街 大田洋子原爆作品集 新版』は、1945年8月6日の広島への原爆投下を直接体験した大田洋子が、被爆者としての「当事者性」をもって書き上げた原爆文学の代表作12編を収録したアンソロジーです。彼女は広島生まれの小説家で、戦前は『海女』(1939年)や『桜の国』(1940年)で文壇に名を馳せましたが、被爆体験を基にした『屍の街』(1948年初出)や『人間襤褸』(1951年、女流文学賞受賞)で「原爆作家」としての評価を確立しました。本書は、占領軍の検閲や出版の困難を乗り越えて刊行されたこれらの作品を現代に甦らせ、核の恐怖と平和の願いを後世に伝えることを目的としています。 本書の特徴は、被爆直後の広島の地獄のような光景をリアルタイムで記録した『屍の街』をはじめ、被爆者の肉体的・精神的苦痛やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を描いた『半人間』、戦後社会の矛盾を背景にした短編など、多様な視点から原爆の影響を浮き彫りにする点です。小鳥遊書房は、本書を通じて「戦後が続いている」現代において、戦争を「戦前・戦中」に変えないための警鐘を鳴らしています。[](https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784867800546) --- ### **収録作品と詳細な要約** 本書には以下の12編が収録されており、各作品は原爆の直接的・間接的な影響を異なる角度から描いています。以下に、主要作品を中心に内容を詳細に解説します。 #### **1. 河原** - **内容**:原爆投下直後の広島市内の河原で過ごした被爆者の体験を描く短編。焼け野原と化した街で、生き残った人々が虚脱状態で野宿する様子や、死体が累々と横たわる光景を描写。作者自身が目撃した「僕死にそうです」と呟いて息絶える少年の姿が印象的です。 - **特徴**:即時的な被爆の惨状を記録するドキュメンタリー的な筆致。極限状態での人間の無力感と生存への執着が交錯する。 - **意義**:原爆の破壊力と非人道性を直接的に伝える作品として、後の『屍の街』の原型ともいえる。 #### **2. 牢獄の詩** - **内容**:被爆後の広島で、生存者が感じる閉塞感や死の恐怖を詩的な表現で描く。牢獄のような精神状態と、原爆症への不安がテーマ。 - **特徴**:散文詩に近い形式で、感情の断片を切り取る。被爆者の内面的な苦悩に焦点を当て、後の『半人間』に繋がる心理描写の萌芽が見られる。 #### **3. 屍の街** - **内容**:本書の表題作であり、大田洋子の代表作。1945年8月6日から11月にかけて、広島市内の妹宅で被爆し、玖島村(現・廿日市市)に避難しながら執筆されました。原爆投下直後の広島の惨状—「銅色に焦げた皮膚」「焼栗のような火ぶくれ」「白赤くむけた皮膚を垂れ下げた人々」—を克明に記録。街は「死体の襤褸筵(らんろせん)」と化し、生き残った人々も原爆症の恐怖に怯えます。作者は、ペンも紙もない中で障子紙やちり紙に書き付け、「死ぬ前に記録する」使命感で執筆しました。[](https://www.aozora.gr.jp/cards/001757/files/61154_76530.html)[](https://www.aozora.gr.jp/cards/001757/card61154.html) - **背景**:1945年11月に脱稿するも、GHQのプレスコード(検閲)により即時出版は不可能でした。1948年に中央公論社から一部削除版が刊行され、1950年に冬芽書房から「完本」として出版。削除版への不満を大田が「序」で吐露しており、検閲と自主規制の影響が明らかです。[](https://news.yahoo.co.jp/articles/fc2589aa4ebc0b321c99e5b88bfbdc197eba2cc1) - **特徴**:ドキュメンタリー的な迫真性と文学的表現の融合。被爆直後の混乱と恐怖を、作家の目で冷静に、しかし感情を込めて描く。「今度の敗北こそは、日本をほんとうの平和にするものであってほしい」という一節は、平和への願いを象徴します。[](https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784867800546) - **意義**:原爆文学の金字塔として、被爆の惨状を世界に伝えた。2023年には「世界の記憶」(ユネスコ記憶遺産)への登録を目指す動きがあり、広島文学資料保全の会などがその価値を訴えています。[](https://news.yahoo.co.jp/articles/fc2589aa4ebc0b321c99e5b88bfbdc197eba2cc1) #### **4. 過去** - **内容**:被爆体験を振り返り、戦前の広島と戦後の荒廃を対比。過去の美しかった街と、原爆で失われた日常への郷愁を描く。 - **特徴**:自伝的要素が強く、大田の故郷・広島への愛着が表れる。戦争の愚かさと平和の脆さを静かに訴える。 #### **5. 恋城** - **内容**:被爆後の広島を舞台に、人間関係や恋愛を通じて生存者の心の傷を描く。破壊された街での人間の繋がりの希薄さを描写。 - **特徴**:原爆文学としては珍しく、ロマンス要素を含むが、背景には常に被爆の影が色濃い。 #### **6. どこまで** - **内容**:被爆者としてのアイデンティティと、戦後社会での疎外感をテーマにした短編。原爆症の恐怖と社会の無理解が描かれる。 - **特徴**:戦後日本の「逆コース」(再軍備や保守化)への批判が背景にあり、被爆者の孤立感を強調。 #### **7. 暴露の時間** - **内容**:原爆の真実を語ることへの葛藤と、作家としての使命感を描く。GHQの検閲下での表現の制約がテーマ。 - **特徴**:検閲による言論統制の実態を間接的に批判。作家の内面的闘争が鮮明。 #### **8. ほたる** - **内容**:被爆後の夜、ほたるの光をモチーフに、希望と絶望の狭間を描く短編。微かな光に人間の再生を重ねる。 - **特徴**:詩的で象徴的な表現が特徴。原爆文学の中では希望を湛えた作品。 #### **9. 半人間** - **内容**:原爆後遺症とPTSDに苦しむ大田自身の入院体験を基にした作品。被爆者として繰り返し体験を語る苦痛や、戦後日本の再軍備への不安が精神を蝕む様子を描く。「被爆作家」としての重圧と、狂気と妄想に囚われた心理状態を赤裸々に綴る。[](https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B1%258D%25E3%2581%25AE%25E8%25A1%2597-%25E5%258D%258A%25E4%25BA%25BA%25E9%2596%2593-%25E8%25AC%259B%25E8%25AB%2587%25E7%25A4%25BE%25E6%2596%2587%25E8%258A%25B8%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0-%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590/dp/4061963287)[](https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-9950458188) - **特徴**:現代のPTSD研究の視点から見ても先駆的な心理描写。日常と異常の境界が崩れる恐怖が強烈。「小説としての出来は『屍の街』より優れている」との評価もある。[](https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B1%258D%25E3%2581%25AE%25E8%25A1%2597-%25E5%258D%258A%25E4%25BA%25BA%25E9%2596%2593-%25E8%25AC%259B%25E8%25AB%2587%25E7%25A4%25BE%25E6%2596%2587%25E8%258A%25B8%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0-%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590/dp/4061963287) - **意義**:被爆者の精神的トラウマを初めて文学的に表現し、原爆の長期的な影響を浮き彫りにした。 #### **10. 残醜点々** - **内容**:原爆による身体的・精神的傷跡(「残醜」)をテーマに、被爆者の社会復帰の困難さを描く。傷ついた身体と心が社会から疎外される現実を批判。 - **特徴**:被爆者の差別や偏見を扱い、社会的問題に踏み込む。 #### **11. ある墜ちた場所** - **内容**:原爆で破壊された広島の特定の場所を舞台に、記憶と喪失を描く。場所を通じて過去と現在の断絶を表現。 - **特徴**:場所の象徴性を用いた文学的アプローチ。広島の風景が物語の中心。 #### **12. その他(単行本未収録作品)** - 本書には、これまで単行本未収録だった短編も含まれ、原爆体験を多角的に捉える。大田の原爆文学の全貌を網羅する試み。 --- ### **本書の構成と特徴** - **新版の特徴**:2020年版を基に、装丁を上製から並製に変更、ページ数を圧縮(約300ページ)、価格を3,300円から3,000円に改定。解説は女性文学研究者による新たな視点で更新され、大田の文学的意義を現代に再評価。[](https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784867800546) - **文体と表現**:大田の文体は、ドキュメンタリー的な客観性と詩的な主観性が融合。被爆の惨状を克明に描写しつつ、作家としての感性が光る。特に『屍の街』は「迫真のドキュメンタリー」として高く評価され、『半人間』はPTSDの先駆的描写として注目される。[](https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B1%258D%25E3%2581%25AE%25E8%25A1%2597-%25E5%258D%258A%25E4%25BA%25BA%25E9%2596%2593-%25E8%25AC%259B%25E8%25AB%2587%25E7%25A4%25BE%25E6%2596%2587%25E8%258A%25B8%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0-%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590/dp/4061963287) - **検閲との闘い**:『屍の街』はGHQのプレスコードにより1948年まで出版が遅れ、一部削除版で刊行。完全版は1950年に冬芽書房から出版された。大田は削除版への不満を「序」で述べており、検閲による言論統制の実態が明らか。[](https://news.yahoo.co.jp/articles/fc2589aa4ebc0b321c99e5b88bfbdc197eba2cc1) - **社会的背景**:戦後日本の「逆コース」や再軍備への不安が、作品に暗い影を落とす。被爆者への社会的無理解や差別もテーマとして浮上。 --- ### **大田洋子の生涯と本書の意義** - **大田洋子の背景**:1903年(または1906年)広島生まれ。少女時代を玖島村で過ごし、戦前は『女人芸術』などで活躍。1945年、広島で被爆し、原爆文学を書き続ける。1950年代以降は原爆症の後遺症や精神的苦痛に悩み、1963年に福島県で心臓麻痺により急死(57歳)。[](https://ja.wikipedia.org/wiki/%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590)[](https://en.wikipedia.org/wiki/Y%25C5%258Dko_%25C5%258Cta) - **文学的功績**:『屍の街』は原爆文学の草分けとして、峠三吉の『原爆詩集』や原民喜の『夏の花』と並ぶ重要作。被爆者の声を文学として残し、核の恐怖を世界に伝えた。[](https://www.asahi.com/articles/ASS9N4GXMS9NPITB006M.html) - **現代への影響**:本書は、2024年のノーベル平和賞を日本被団協が受賞した文脈で再注目されている。核兵器の脅威が続く現代において、ウクライナ戦争や核威嚇を背景に、平和の重要性を訴える。広島文学資料保全の会は『屍の街』を「世界の記憶」登録候補として推しており、文学碑の移設や朗読会を通じてその継承に努めている。[](https://www.asahi.com/articles/ASS9N4GXMS9NPITB006M.html)[](https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=139950) - **評価と批判**:読者からは「ほぼリアルタイムの記録の迫真性」「PTSDの描写の先見性」が高く評価される一方、現代の読者には被爆の惨状が既知であるため「衝撃が少ない」との声も。『半人間』の心理描写は「文学的完成度が高い」と評される。[](https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B1%258D%25E3%2581%25AE%25E8%25A1%2597-%25E5%258D%258A%25E4%25BA%25BA%25E9%2596%2593-%25E8%25AC%259B%25E8%25AB%2587%25E7%25A4%25BE%25E6%2596%2587%25E8%258A%25B8%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0-%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590/dp/4061963287)[](https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-9950458188) --- ### **総括** 『屍の街 大田洋子原爆作品集 新版』は、広島原爆の惨禍を被爆者自身の視点で描いた文学的記録であり、核兵器の非人道性と戦争の愚かさを訴える不朽の作品集です。『屍の街』のドキュメンタリー的迫真性、『半人間』の心理的深み、短編の多角的視点を通じて、原爆の即時的・長期的な影響を浮き彫りにします。大田洋子の鋭い感性と使命感は、検閲や体調不良を乗り越えて作品を残した彼女の闘争心を物語ります。 本書は、原爆文学に関心のある読者、広島の歴史や被爆者の体験を学びたい人、及び核問題を考える現代人に強く推薦されます。ただし、描写の過酷さや一部作品の難解さが一般読者にとってハードルとなる場合があります。購入はAmazon、楽天ブックス、紀伊國屋書店などで可能(3,000円、税込)。[](https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784867800546) --- ### **参考文献** - 小鳥遊書房公式サイト()[](https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/638)[](https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784867800546) - Amazonレビュー()[](https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B1%258D%25E3%2581%25AE%25E8%25A1%2597-%25E5%25B9%25B3%25E5%2592%258C%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0-%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590/dp/4284800809)[](https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B1%258D%25E3%2581%25AE%25E8%25A1%2597-%25E5%258D%258A%25E4%25BA%25BA%25E9%2596%2593-%25E8%25AC%259B%25E8%25AB%2587%25E7%25A4%25BE%25E6%2596%2587%25E8%258A%25B8%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0-%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590/dp/4061963287)[](https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-9950458188) - 朝日新聞記事()[](https://www.asahi.com/articles/ASS7124D9S71PITB02WM.html)[](https://www.asahi.com/articles/ASS9N4GXMS9NPITB006M.html) - 広島平和メディアセンター()[](https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=139950) - 青空文庫()[](https://www.aozora.gr.jp/cards/001757/files/61154_76530.html)[](https://www.aozora.gr.jp/cards/001757/card61154.html) - Wikipedia()[](https://ja.wikipedia.org/wiki/%25E5%25A4%25A7%25E7%2594%25B0%25E6%25B4%258B%25E5%25AD%2590)[](https://en.wikipedia.org/wiki/Y%25C5%258Dko_%25C5%258Cta) - Yahoo!ニュース()[](https://news.yahoo.co.jp/articles/fc2589aa4ebc0b321c99e5b88bfbdc197eba2cc1) 本書の情報は、提供されたウェブ検索結果とX投稿を基に構成し、客観性と正確性を確保しました。現代の視点から大田の文学を再評価し、核問題への警鐘としてその意義を強調しています。