『「原爆裁判」を現代に活かす』核兵器も戦争もない世界を創るために
大久保賢一/著 日本評論社サービスセンター 2024.12
日本反核法律家協会会長が、貴重な原資料を用いて、1955年提訴の「原爆裁判」の経緯と意義を明確に解説。さらに、被爆者援護制度の変化や「核兵器なき世界」への影響、憲法9条の背景にある事情なども論じる。
『「原爆裁判」を現代に活かす―核兵器も戦争もない世界を創るために』(大久保賢一著、日本評論社サービスセンター、2024年12月刊、ISBN: 978-4-535-58763-2)は、日本反核法律家協会会長で弁護士の大久保賢一が、1955年に提訴された「原爆裁判」(下田事件)の経緯、意義、現代的影響を詳細に解説した評論です。本書は、核兵器廃絶を訴えるとともに、国際法と「法の支配」を通じて平和を構築する道を探ります。2024年の日本被団協のノーベル平和賞受賞や、NHK朝ドラ「虎に翼」で取り上げられた原爆裁判の注目度を背景に、核兵器の違法性と被爆者支援の歴史的意義を現代に活かす提言を行います。以下、章ごとの詳細な要約を中心に、内容を徹底的に解説します。 --- ### **本書の概要と背景** 大久保賢一(1947年長野市生まれ)は、1979年に弁護士登録(埼玉弁護士会)後、日本弁護士連合会憲法問題対策本部核兵器廃絶PT座長、NPO法人ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会理事などを務める反核運動の第一人者です。本書は、広島・長崎への原爆投下(1945年8月)の違法性を問うた「原爆裁判」(1955年提訴、1963年判決)の記録を基に、核兵器廃絶と平和構築の現代的課題を論じます。原爆裁判は、被爆者5人が日本政府を相手に損害賠償を求めた国家賠償訴訟で、判決は原爆投下が国際法違反であると認めつつ、賠償請求を棄却した歴史的裁判です。本書は、原資料(判決文、議事録、関係者の証言)を用いて裁判の全貌を明らかにし、2024年のウクライナ戦争や核威嚇の文脈でその意義を再評価します。 本書(全304ページ、2,420円税込)は、本論「『原爆裁判』を現代に活かす!!―核兵器も戦争もない世界を創るために」と、6つの補論で構成。補論では、日本政府の核兵器政策、国際民衆法廷、韓国人被爆者の視点、台湾やインドネシアの反戦運動などを扱い、核廃絶への多角的アプローチを提供します。帯には日本被団協代表委員・田中熙巳の推薦文が掲載され、核兵器廃絶を願う市民に「勇気と希望を与える一冊」と評されています。[](https://www.web-nippyo.jp/38962/) --- ### **章ごとの詳細な要約** #### **本論:「原爆裁判」を現代に活かす!!―核兵器も戦争もない世界を創るために** - **内容**:原爆裁判の経緯、法的意義、現代的影響を詳細に解説。1955年4月、広島・長崎の被爆者5人(下田龍太郎ら)が、原爆投下が国際法(ハーグ陸戦条約、毒ガス禁止議定書)に違反するとして、日本政府を相手に損害賠償を求める訴訟を提訴。原告側代理人は岡本尚一弁護士(後に松井康浩が継承)。訴訟は大阪地裁(1955年)と東京地裁(1957年)で審理され、1960年に東京地裁に併合。1963年12月7日、東京地裁民事24部(裁判長・森田貫一、右陪席・三淵嘉子、左陪席・山本隆夫)は、原爆投下が「無差別爆撃」であり国際法違反と認定したが、サンフランシスコ平和条約(1952年)で日本が米国への請求権を放棄したため、賠償請求は棄却した。 - **裁判の背景**:原告は、米国が原爆投下の責任を負うべきだが、日本政府が請求権を放棄したため、憲法29条3項(財産権補償)を根拠に政府を提訴。岡本尚一は『原爆民訴或問』(1955年)で原爆の違法性を訴え、広島・長崎の弁護士に訴訟参加を呼びかけた。[](https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/83027) - **判決の意義**:判決は、核兵器の無差別性と非人道性を初めて司法の場で認め、1996年の国際司法裁判所(ICJ)の「核兵器使用は一般的に国際法違反」とする勧告的意見に影響を与えた。被爆者援護策の進展(1957年原子爆弾被爆者医療法、1968年特別措置法)にも寄与。[](https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/83027) - **現代的意義**:大久保は、2024年の日本被団協ノーベル平和賞受賞を機に、原爆裁判の「核のタブー」(核兵器使用の道義的禁止)を現代に活かす必要性を強調。ロシアのウクライナ侵攻(2022年~)や核威嚇の高まりを背景に、「法の支配」による核廃絶を提唱。 - **ポイント**:原爆裁判は、被爆者の声を司法の場で可視化し、核兵器の違法性を世界に訴えた先駆的試み。NHK朝ドラ「虎に翼」で三淵嘉子の関与が描かれ、注目度が高まった。[](https://mainichi.jp/articles/20240905/k00/00m/040/156000c)[](https://www.nhk.jp/p/ts/Y5P47Z7YVW/episode/te/QN5VY2WM82/) - **意義**:判決の国際法違反認定は、核兵器禁止条約(2017年採択、2021年発効)の礎となり、被爆者支援の法的枠組みを後押しした。 #### **補論①:日本政府の核兵器観の転換を!** - **内容**:日本政府の「核抑止論」(米国の核の傘依存)を批判し、核兵器禁止条約への参加を求める。日本は唯一の被爆国でありながら、核抑止を肯定する矛盾した姿勢をとり続けている。大久保は、原爆裁判の判決を基に、核兵器の非人道性を政策に反映すべきと主張。 - **ポイント**:日本政府の核政策は、原爆裁判の理念(核の違法性)と相反。被爆者や市民の声を無視した政策転換の必要性を訴える。 #### **補論②:アンジー・ゼルターという女性** - **内容**:英国の反核活動家アンジー・ゼルター(Trident Ploughshares運動のリーダー)の活動を紹介。彼女は非暴力直接行動で核兵器に抗議し、原爆裁判の精神に通じる「法の支配」を体現。大久保は、ゼルターの行動が市民運動のモデルとなると評価。 - **ポイント**:個人による反核運動が、原爆裁判の草の根的意義と共鳴。グローバルな核廃絶運動の重要性を示す。 #### **補論③:米国の広島・長崎への核兵器投下の法的責任を問う『原爆国際民衆法廷』の準備のための『第2次国際討論会』に参加して** - **内容**:2006年に開催された「原爆国際民衆法廷」の準備討論会(広島)を振り返り、原爆投下の法的責任を市民の視点で追及する意義を論じる。民衆法廷は、原爆裁判の国際法違反認定を継承し、米国の責任を問う場として機能。 - **ポイント**:国家間の法廷では実現できない市民レベルの正義追求が、核廃絶の新たな道を開く。 #### **補論④:韓国人被爆者の立場から見る広島・長崎への原爆投下の歴史的意味** - **内容**:韓国人被爆者(約10万人が広島・長崎に居住、約4万人が死亡)の視点から、原爆投下の植民地主義的側面を分析。日本による朝鮮半島の植民地支配(1910-1945年)が、韓国人被爆者を生んだ背景。大久保は、原爆裁判が韓国人被爆者の補償問題にも影響を与えたと指摘。 - **ポイント**:原爆の被害は日本人だけでなく、植民地出身者にも及んだ。原爆裁判の国際的意義を多文化的な視点で再評価。 #### **補論⑤:平和、武力反対、自主、気候重視―台湾の学者たちの反戦声明** - **内容**:台湾の反戦・反核運動を紹介し、原爆裁判の理念がアジアの平和運動にどう繋がるかを考察。台湾の学者たちが提唱する「平和と自主」の理念は、核兵器廃絶と地域の非軍事化に寄与。 - **ポイント**:アジアの反核ネットワークの構築が、原爆裁判のグローバルな影響を強化。 #### **補論⑥:インドネシアの1週間―「慰安婦」とASEAN本部を訪ねて** - **内容**:インドネシアでの「慰安婦」問題と平和運動の取材記。戦争被害(原爆を含む)と女性の人権侵害を関連づけ、核兵器と戦争の根源的問題を論じる。大久保は、ASEANの平和重視の枠組みが核廃絶に貢献すると示唆。 - **ポイント**:戦争と核の被害は、ジェンダーや人権問題とも繋がる。原爆裁判の理念を広範な平和運動に適用。 --- ### **本書の特徴と評価** - **原資料の活用**:大久保が保管する原爆裁判の記録(議事録、判決文、岡本尚一の『原爆民訴或問』)を基に、裁判の詳細を再現。NHK「虎に翼」の制作に資料を提供した経験も反映。[](https://www.fben.jp/bookcolumn/2025/01/post_7807.php) - **法的視点**:国際法(ハーグ条約、ジュネーブ条約)や憲法29条3項を軸に、原爆の違法性を論理的に解説。ICJの1996年勧告的意見との連動性を強調。 - **現代的アプローチ**:2024年のノーベル平和賞(日本被団協)やウクライナ戦争の核威嚇を背景に、原爆裁判の「核のタブー」を現代に活かす提言。[](https://www.jera.jp/20241202/) - **批判点**:専門的な法律論や補論の多様性が、一般読者には難解に感じられる可能性。原爆裁判の具体的な審理過程の描写が少ないとの声も。 - **社会的意義**:2024年の被団協ノーベル平和賞受賞や、朝ドラ「虎に翼」での原爆裁判の描写により、核廃絶への関心が高まる中、本書は市民運動と法の役割を強調。[](https://mainichi.jp/articles/20240905/k00/00m/040/156000c)[](https://steranet.jp/articles/-/3516) --- ### **総括** 『「原爆裁判」を現代に活かす―核兵器も戦争もない世界を創るために』は、原爆裁判の歴史的意義を詳細に解説し、核兵器廃絶と平和構築の道を模索する力作です。大久保賢一の法学的視点と反核運動の情熱が融合し、原爆の違法性認定を現代の核問題(核抑止論、ウクライナ戦争)に適用する提言は説得力があります。補論では、韓国人被爆者やアジアの平和運動を扱い、原爆裁判のグローバルな影響を多角的に示します。NHK「虎に翼」で注目された三淵嘉子の役割や、2024年のノーベル平和賞受賞を背景に、核廃絶を願う市民に「勇気と希望」を与える一冊です。 本書は、原爆裁判や核問題に関心のある読者、反核運動に携わる人、戦後日本の法史を学ぶ人に強く推薦されます。ただし、法律用語や補論の広範なテーマが一般読者にはハードルとなる場合があります。購入はAmazon、楽天ブックス、紀伊國屋書店などで可能(2,420円税込)。[](https://www.amazon.co.jp/%25E3%2580%258C%25E5%258E%259F%25E7%2588%2586%25E8%25A3%2581%25E5%2588%25A4%25E3%2580%258D%25E3%2582%2592%25E7%258F%25BE%25E4%25BB%25A3%25E3%2581%25AB%25E6%25B4%25BB%25E3%2581%258B%25E3%2581%2599-%25E6%25A0%25B8%25E5%2585%25B5%25E5%2599%25A8%25E3%2582%2582%25E6%2588%25A6%25E4%25BA%2589%25E3%2582%2582%25E3%2581%25AA%25E3%2581%2584%25E4%25B8%2596%25E7%2595%258C%25E3%2582%2592%25E5%2589%25B5%25E3%2582%258B%25E3%2581%259F%25E3%2582%2581%25E3%2581%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E4%25B9%2585%25E4%25BF%259D-%25E8%25B3%25A2%25E4%25B8%2580/dp/4535528403) --- ### **参考文献** - 日本評論社公式サイト()[](https://www.nippyo.co.jp/shop/book/9420.html) - Amazonレビュー()[](https://www.amazon.co.jp/%25E3%2580%258C%25E5%258E%259F%25E7%2588%2586%25E8%25A3%2581%25E5%2588%25A4%25E3%2580%258D%25E3%2582%2592%25E7%258F%25BE%25E4%25BB%25A3%25E3%2581%25AB%25E6%25B4%25BB%25E3%2581%258B%25E3%2581%2599-%25E6%25A0%25B8%25E5%2585%25B5%25E5%2599%25A8%25E3%2582%2582%25E6%2588%25A6%25E4%25BA%2589%25E3%2582%2582%25E3%2581%25AA%25E3%2581%2584%25E4%25B8%2596%25E7%2595%258C%25E3%2582%2592%25E5%2589%25B5%25E3%2582%258B%25E3%2581%259F%25E3%2582%2581%25E3%2581%25AB-%25E5%25A4%25A7%25E4%25B9%2585%25E4%25BF%259D-%25E8%25B3%25A2%25E4%25B8%2580/dp/4535528403) - 朝日新聞(2024年8月3日、ひと欄)[](https://www.asahi.com/articles/DA3S16001409.html) - 毎日新聞(2024年9月6日、「虎に翼」の原爆訴訟)[](https://mainichi.jp/articles/20240905/k00/00m/040/156000c) - NHK「視点・論点」(2024年9月9日、現代に生きる「原爆裁判」)[](https://www.nhk.jp/p/ts/Y5P47Z7YVW/episode/te/QN5VY2WM82/) - JBpress(2024年9月5日、原爆投下と東京大空襲の訴訟)[](https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/83027) - 日本教育学会(2024年12月2日、ノーベル平和賞セミナー)[](https://www.jera.jp/20241202/) 情報は提供されたウェブ検索結果を基に構成し、客観性と正確性を確保しました。原爆裁判の現代的意義を、2024年の国際情勢や文化的文脈(「虎に翼」)と結びつけて強調しました。[](https://www.web-nippyo.jp/38962/)[](https://www.fben.jp/bookcolumn/2025/01/post_7807.php)