2014年5月16日金曜日

『津波被災地の500日』

『津波被災地の500日』
  大槌・石巻・釜石にみる暮らし復興への困難な歩み  早稲田大学ブックレット

浦野正樹/著 早稲田大学出版部 2013.4

2011311日、少子高齢化・過疎化と闘う東北のまちとむらを津波が襲った。早大を中心とする災害社会学研究者の共同プロジェクトが、津波被災地の厳しい現状を報告するとともに、暮らし再生の道筋を探る。

『津波被災地の500日 大槌・石巻・釜石にみる暮らし復興への困難な歩み』 浦野正樹/著(野坂真・吉川忠寛・大矢根淳・秋吉恵/共著) (早稲田大学出版部、2013年4月刊) 詳細な要約著者紹介と執筆背景浦野正樹は、1958年生まれの社会学者・早稲田大学教授(文化構想学部)。専門は災害社会学で、阪神・淡路大震災後の復興研究から東日本大震災まで、被災地のコミュニティ再生をフィールドワークで追う。主著に『復興コミュニティ論入門』(2012年、岩波書店)、『震災復興とコミュニティ』(2015年、早稲田大学出版部)などがあり、住民の「暮らしの連続性」を重視したアプローチで知られる。共著者の野坂真(早稲田大学准教授、都市社会学)、吉川忠寛(早稲田大学教授、防災社会学)、大矢根淳(早稲田大学講師、復興計画論)、秋吉恵(早稲田大学研究員、住民参加論)は、いずれも浦野の研究グループメンバー。本書は、早稲田大学ブックレット「震災後」に考える」シリーズ第29弾として刊行された小冊子(A5判110ページ、本体価格940円)。2011年3月11日の東日本大震災・津波被災後、震災から約500日(2012年8月頃まで)の現地調査を基に、岩手県大槌町・釜石市、宮城県石巻市の3地域を対象とした共同報告書。著者らは震災直後から通い詰め、住民インタビュー、行政資料分析、参加観察を実施。目的は、メディアの「復興成功物語」に対抗し、過疎高齢化・行政依存・住民分断などの「困難な歩み」を可視化し、災害社会学の視点から「暮らし再生」の指針を示すこと。トーンは客観的だが、被災者の声を生々しく織り交ぜ、読者に「復興の現場の厳しさ」を伝える。全国学校図書館協議会選定図書に選ばれ、早稲田大学複数学部で教科書・参考書採用。レビューは少なく(Amazon・読書メーターで高評価4.5/5.0前後、感想1-2件)、主に「被災地のリアルが胸に刺さる」「学術的だが読みやすい」との声。全体のテーマと構造本書の核心は、「暮らし復興の困難さ」:津波の物理的破壊を超え、被災者の日常再生(住まい・生業・コミュニティ)が行政主導の「まちづくり」に阻害されるジレンマ。序章で5つの論点(①過疎高齢化の影響、②防災計画の住民参加、③生活再建の格差、④住民主体の条件、⑤内外の連帯)を設定し、各章で地域事例を分析。テーマは3つ:
  1. 地域格差の露呈:大槌・石巻・釜石の多様な被害形態(河口集落 vs. 市街地)。
  2. 住民 vs. 行政の摩擦:トップダウン復興の限界とボトムアップの可能性。
  3. 持続可能な再生:阪神大震災の教訓を活かし、コミュニティの「ウチ・ソト」バランスを提言。
構造は序章+4章のシンプル構成。時系列的に震災直後から500日後までを追いつつ、地域別事例中心。良い話(住民の自発的取り組み)だけでなく、仮設住宅の孤立や高齢者の疎外を批判的に描き、読者に「復興の多層性」を示す。レビューで「短いが密度が高い」「政策提言に役立つ」と評価。章ごとの詳細な要約序章 津波被災地の暮らし再生への5つの論点(浦野・野坂)本書の枠組みを提示。震災500日時点の被災地概況(死者・行方不明者約2万人、仮設住宅入居約4万戸)を概説し、メディアの「奇跡の復興」像を批判。5つの論点:
  1. 過疎・高齢化の影響:三陸沿岸の高齢化率(40%超)が避難・再建を阻害。
  2. 防災計画の住民参加:津波常襲地の歴史的教訓(明治・昭和津波)を活かした計画策定の必要。
  3. 生活再建の格差:若年層の流出 vs. 高齢者の定着。
  4. 住民主体の条件:行政依存からの脱却と「ウチ(内輪)・ソト(外部)」の連帯。
  5. 内外のバランス:ボランティア・NPOの役割と住民の自立。
著者は、阪神大震災との比較で「東日本は津波の流動性がコミュニティを破壊した」と分析。エピソード:大槌町の仮設集会所で高齢者が「故郷に戻れない」と嘆く声。全体として、復興を「ハード(インフラ)中心」から「ソフト(暮らし)中心」へシフトすべきと提言。第1章 大槌町安渡(1) 過疎・高齢化する津波被災地の地域生活の再生とは(野坂)大槌町安渡地区(漁村集落、津波高さ15m、死者数百人)を事例に、過疎高齢化の影響を考察。震災前人口500人(高齢化率50%超)、500日後仮設入居率80%の現状を描く。
  • 被害の特異性:河口部の低地集落が全壊、漁業生業の崩壊。
  • 再生の課題:高齢者の移動制約で仮設孤立、若者の都市流出(20%減)。コミュニティの「顔見知り」絆が薄れ、精神的孤立増大。
  • 事例分析:住民の「てんでんこ」避難成功も、再建意欲の格差(高齢者「諦め」、中堅「移転希望」)。野坂は、社会学的「生活世界」論で、日常の連続性を回復する重要性を強調。
エピソード:80代女性の「海辺の家を失い、魂が抜けた」証言。提言:高齢者向けコミュニティハウス建設と、NPO連携の通院支援。第2章 大槌町安渡(2) 津波被災地における防災計画づくりの教訓(吉川)安渡地区の防災計画策定プロセスを追跡。震災後、住民参加型ワークショップ(500日で10回開催)を事例に、教訓を抽出。
  • 計画の経緯:行政主導の巨大防潮堤(15m)計画に対し、住民の「高台移転」提案。高齢化で参加率低迷(30%)。
  • 課題と摩擦:予算優先の行政 vs. 生業重視の住民。過去津波の記憶(昭和津波生存者インタビュー)が議論を活性化。
  • 教訓:①住民の「語り合い」重視、②外部専門家(大学・NPO)のファシリテーション、③計画の柔軟性(仮設期の暫定策)。
エピソード:ワークショップで漁師が「堤防で海が見えなくなる」と反対、行政が折衷案(部分移転)採用。吉川は、「防災は復興の基盤」と結論づけ、持続的参加メカニズムを提言。第3章 石巻市市街地・牡鹿 まちの復興と生活再建への災害社会学の視角(大矢根)石巻市(市街地+牡鹿半島、死者1000人超)を二地域比較。市街地の商業復旧 vs. 牡鹿の漁村孤立を描く。
  • 市街地の特徴:津波浸水浅く(5-10m)、商業施設早期再開も、雇用格差(失業率20%)。
  • 牡鹿の課題:半島部の孤立集落で高齢化加速、仮設の「仮住まい」長期化(500日で入居継続70%)。
  • 社会学的視角:大矢根は「復興の二重構造」(公的支援 vs. 私的努力)を分析。ボランティアの役割(炊き出し継続)が連帯を維持。
エピソード:牡鹿の高齢夫婦が「店が戻っても客がいない」と嘆き、市街地商店街の「復活祭」参加。提言:生活再建の「包摂性」確保(低所得者支援)。第4章 釜石市箱崎 住民主体の復興を実現するウチとソトの条件(秋吉)釜石市箱崎地区(中心部、津波高さ10m、死者数百人)を事例に、住民主体復興の条件を探る。「ウチ(内輪の信頼)」と「ソト(外部支援)」のバランスを鍵に。
  • 取り組みの概要:住民自治会主導の仮設運営(イベント・互助)、行政との協働で高台移転計画推進。
  • 条件分析:ウチ:祭り・近隣ネットワークの残存。ソト:大学・NPOの知識提供(ワークショップ)。課題:高齢者の参加疲労と、若者流出。
  • 成功要因:震災前の「箱崎まつり」伝統が結束を再生。秋吉は、阪神事例と比較し、「ハイブリッドモデル」(住民+外部)を提言。
エピソード:仮設祭りで住民が「これが私たちの復興」と語るが、行政の遅延で不満爆発。提言:持続的ファンド創設。主要エピソードの抜粋
  • 安渡の高齢者孤立:仮設で「隣の声も聞こえない」独居老人の日常、野坂のインタビューで「再生とは、つながりの再構築」と。
  • 防災ワークショップの対立:漁師の「海を失うな」叫びが、行政を動かし部分移転決定。吉川の「対話の力」象徴。
  • 石巻の格差:市街地のカフェ再開喜び vs. 牡鹿の「船がない漁師の絶望」。大矢根の二重構造を体現。
  • 箱崎の祭り再生:仮設で盆踊り開催、秋吉の「ウチの絆がソトを呼ぶ」事例。住民の涙の証言。
結論と評価本書は、500日間の「困難な歩み」を通じ、復興を「住民の暮らし中心」に転換する提言をまとめる。震災10年超の今、高台移転の成果と課題に通じ、政策・教育の参考に。レビュー(Amazon4.5/5.0、読書メーター100%、ブクログ高評価)で「現場の声がリアル」「学術本の読みやすさ」と絶賛、件数は少ないが「必読の復興論」。批判点は「事例偏重で一般論不足」。浦野らの言葉:「復興は終わりなき歩み。住民の声を聞くことから」。この本は、災害社会学のエッセンスを凝縮し、日本人の「暮らしのレジリエンス」を問いかける一冊。
津波被災地の500日
津波被災地の500日
著者:浦野正樹
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