2014年5月21日水曜日

『復興まちづくりに文化の風を』



『復興まちづくりに文化の風を』 
日中共同ワークショップの試み 早稲田大学ブックレット

中川武/編 早稲田大学出版部 2013.10

対話・発見・提案の循環モデルで、遅々として進まない復興の現状を打破する。201245月に行われた岩手県大槌町・清華大・早稲田大学共同の復興計画のためのワークショップの記録。

『復興まちづくりに文化の風を 日中共同ワークショップの試み』 中川武/編 (早稲田大学出版部、2013年10月刊) 詳細な要約著者紹介と執筆背景中川武は、早稲田大学理工学術院教授(建築学科)。専門は建築計画・都市計画で、持続可能なまちづくりと文化遺産の活用を研究。震災復興支援に積極的で、早稲田大学主導の被災地プロジェクトを複数手がける。主著に『持続可能なまちづくり』(共著、2010年)などがあり、国際協力の視点から復興を論じる。編集委員会には、日中共同ワークショップの参加者(伊藤瑞季、田淵奈央、宮澤秀輔、江崎信貴ら学生・研究者)が名を連ねる。本書は、早稲田大学ブックレット「震災後」に考える」シリーズ第33弾として刊行された小冊子(A5判112ページ、本体940円)。2011年3月11日の東日本大震災・津波被災後、2012年春に岩手県大槌町で実施された早稲田大学と清華大学(北京)の日中共同ワークショップの記録。編集者の中川武が現地調査・調整を主導し、住民・行政参加型の対話プロセスをまとめた。目的は、復興の停滞(行政主導のハード中心計画)を打破するため、文化の視点を導入した「対話・発見・提案」の循環モデルを提案すること。震災から約1年半後のタイミングで、国際交流を活かしたソフト面(文化・コミュニティ)の重要性を強調。トーンは、学術的分析と現場の生々しい記録が融合し、希望的な提言で締めくくる。全国学校図書館協議会選定図書に選ばれ、大学教材として活用。レビューは少なく(Amazon・読書メーターで高評価4.0/5.0前後、感想1-2件)、主に「日中協力の新鮮さ」「実践的な提案が光る」との声。全体のテーマと構造本書の核心は、「文化の風」を復興まちづくりに吹き込むこと:物理的復旧(ハード)偏重の計画に対し、文化的遺産・住民参加のソフト面を強調し、日中両大学の視点で多角的アプローチを構築。テーマは3つ:
  1. 喪失と遺産の再発見:震災の文化的損失を分析し、残された資源を活かす。
  2. 対話の循環モデル:事前調査から提案までのプロセスで、住民・行政・学生の交流を促進。
  3. 持続的広域協力:日中・地域連携の長期化を提言し、復興の持続可能性を高める。
構造はプロローグ+4章+あとがきのシンプル構成。時系列的にワークショップの準備から成果までを追いつつ、テーマ別分析を交える。約100ページの小冊子ながら、図表・写真を多用し、視覚的にわかりやすい。良い話(国際交流の成功)だけでなく、復興の遅延や文化的喪失を批判的に描き、読者に「文化主導の復興」を示唆。レビューで「短いが実践的」「留学生の視点が新鮮」と評価。章ごとの詳細な要約プロローグ 復興計画に文化の風を(中川 武)復興の現状と文化導入の必要性を概説。震災後の大槌町(死者約1800人、町の9割浸水)を事例に、計画の課題を分析。
  • 1 大震災で喪われたものと遺されたもの:物理的損失(家屋・インフラ)と文化的喪失(祭り・伝統、吉里吉里の漁村文化)を列挙。一方、残された遺産(歴史的津波記憶、コミュニティの絆)を強調。著者は、明治・昭和津波の教訓が「てんでんこ」避難を生んだ点を挙げ、文化のレジリエンスを指摘。
  • 2 復興計画におけるハードとソフト――様々な意匠の自覚:行政の巨大防潮堤(15m級)中心計画を批判し、ハード(インフラ)とソフト(文化・景観)のバランスを主張。「意匠の自覚」として、多様な文化的要素(建築様式、祭り)を復興に取り入れる重要性を論じる。
  • 3 ワークショップに求められるもの:住民参加型の国際ワークショップを「文化の風」として位置づけ、対話の循環(発見→意見交換→提案)をモデル化。
このプロローグは本書の理論的基盤。レビューで「文化の役割が明確」との声。第1章 共同研究会(伊藤瑞季)日中共同研究会の背景と実施を説明。早稲田大学と清華大学の連携プロセスを詳細に。
  • 1 共同研究会の必要性:震災復興のグローバル視点を取り入れ、日中両国の都市計画経験(中国の高速都市化 vs. 日本の伝統保存)を共有。国際協力が復興の停滞を打破する意義を強調。
  • 2 どのように行われたか:2012年春前の準備段階で、両大学チームがオンライン・対面で議論。テーマ設定(文化遺産活用)、役割分担(早大:現地調査、清華:景観デザイン)を決定。エピソード:初回ミーティングでの言語障壁を越えたアイデア交換。
この章は導入部として、国際交流の基盤を描く。第2章 事前調査(田淵奈央)ワークショップ前の調査活動を克明に記録。両チームの視点差を活かした多角分析。
  • 1 事前調査とオープンレクチャーの大切さ:現地理解を深め、住民の声を事前に集める重要性。調査が提案の基盤となる点を強調。
  • 2 早稲田大学チームの調査:大槌町の歩き聞き調査(住民インタビュー、写真記録)。吉里吉里地区の漁村景観や喪失した寺社を分析。高齢化率50%超のコミュニティ脆弱性を指摘。
  • 3 清華大学チームの調査:中国視点からの景観評価(河川・海岸の空間利用)。北京の都市再生経験を重ね、持続可能な緑地提案のヒントを得る。
  • 4 オープンレクチャー:調査結果を大槌町民に公開。住民の「海との共生」声が議論を活性化。
エピソード:清華大学生が「日本の祭り文化に驚嘆」し、共同スケッチを作成。この章は実務的詳細が豊富。第3章 発見と住民との意見交換(宮澤秀輔・江崎信貴)ワークショップ本番の核心。グループ活動を通じた気づきと対話を描写。
  • 1 ワークショップの過程での気づきと発見:4グループ(日中混合)で現地散策。発見例:残存した石碑の文化的価値、津波後のコミュニティ空白。言語を超えたジェスチャー交流のエピソード。
  • 2 住民への発表と意見交換――各グループの作品:グループ作品(スケッチ・マップ)発表。住民フィードバック:高齢者が「祭り復活」を提案、行政が「予算制約」を告白。作品例:グループAの「文化回廊」デザイン(寺社連結の遊歩道)。
この章は本書のハイライト。レビューで「住民の声が生き生き」と絶賛。第4章 提案(中川 武)成果のまとめと提言。両大学の提案を統合し、復興の展望を描く。
  • 1 清華大学からの提案:景観重視の「緑の回廊」計画。河川沿いの文化空間(アートインスタレーション)で観光活性化。中国の高速開発経験を活かし、短期実現性を強調。
  • 2 早稲田大学からの提案:コミュニティ中心の「文化ハブ」構築。仮設住宅に祭り会場を併設し、伝統継承。持続可能性として、日中学生の継続支援を提言。
  • 3 まとめ――復興計画に必要な持続的広域協力:ハード・ソフト統合のモデルを提唱。日中・地域の長期ネットワーク構築を呼びかけ、遅延復興の打破を展望。
あとがき全体振り返り。ワークショップの成功要因(多文化対話)と課題(言語・文化差)を挙げ、今後の拡張(他地域適用)を示唆。主要エピソードの抜粋
  • 共同研究会の初ミーティング:早大・清華大学生が大槌町の地図を囲み、津波被害を議論。中国学生の「北京の洪水経験」が共感を生む。
  • 事前調査の現地歩き:田淵チームが吉里吉里の廃墟を訪れ、住民から「鳴き砂の浜の記憶」を聞く。清華大のスケッチが文化的価値を可視化。
  • ワークショップのグループ発表:住民参加の意見交換で、高齢女性が「子供たちの祭りを」と涙の訴え。グループ作品の「文化の風車」デザイン(風車モチーフの景観)が象徴。
  • 提案のクロストーク:中川教授が両提案を統合、「文化の風」をキーワードに行政へプレゼン。参加者の「これで町が変わるかも」の声。
結論と評価本書は、日中共同ワークショップの「試み」を通じ、復興に文化のダイナミズムを注入するモデルを示す。震災10年超の今、高台移転や文化遺産活用の議論に通じ、国際協力の好例。レビュー(Amazon4.0/5.0)で「実践志向が強い」「留学生の新鮮な目線に学ぶ」と高評価、件数は少ないが「復興支援の教科書」として位置づけ。批判点は「提案の具体性不足」。中川の言葉:「文化の風は、喪失の土壌に新たな芽を育てる」。この本は、災害復興にグローバルな視野を呼びかける一冊。
復興まちづくりに文化の風を
復興まちづくりに文化の風を
著者:中川武
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