2014年5月3日土曜日

『生存者 3.11大槌町、津波てんでんこ 』



『生存者  3.11大槌町、津波てんでんこ

根岸康雄/著 双葉社 2012.3

2011311日、岩手県大槌町を津波が襲い、1400人を超える犠牲者が出た。巨大津波に巻き込まれながら生き延びた人たちは、どのようにして津波の濁流の中を生き残ったのか。生存者の激烈な体験と想いを描き切る。

『生存者 3.11大槌町、津波てんでんこ』 根岸康雄/著 (双葉社、2012年3月刊) 詳細な要約著者紹介と執筆背景根岸康雄(1955年、横浜市生まれ)は、ノンフィクションライター。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経てフリーランスに転身。社会問題や人間ドラマをテーマにした取材記を専門とし、死生観や日常の裏側を探る作風で知られる。主著に『死ぬ準備』(2008年、講談社)、『ずっと書きたかった親への手紙』(2010年、双葉社)、『世界が大切にするニッポン工場力』(2011年、講談社)などがあり、被災地取材では人間の「生の執着」を赤裸々に描く。震災関連では本書が代表作。本書は、2011年3月11日の東日本大震災・津波で壊滅した岩手県大槌町(人口約1万5千人、死者・行方不明者約1,800人、町民の1割超)を舞台に、津波に呑まれながら生還した生存者7人の証言を軸にしたノンフィクション。震災直後から著者が現地に赴き、生存者への詳細なインタビューを実施。刊行は震災1年未満の2012年3月で、約254ページ。双葉社単行本として、迫真の体験談を「津波てんでんこ」(三陸沿岸の津波文化で、「自分の身は自分で守れ」「互助より個別逃走を優先せよ」という教え)の観点から分析。目的は、津波の「生と死の紙一重」を描き、生存のメカニズム(咄嗟の判断、運命、心理)と喪失の痛みを伝えること。全体のトーンは、客観的な取材記述と生存者の生々しい語りが融合し、読者に「生き延びた罪悪感」と「命の尊さ」を問いかける。レビューでは、「津波の恐怖が活字で蘇る」「生存者の選択に心揺さぶられる」と高評価(Amazon平均4.0/5.0、読書メーター3.71/5.0)。大槌町の文脈(リアス式海岸の低地集落、過去の明治・昭和津波経験)を背景に、行政の防災限界も示唆。付録の町長インタビューで復興の視座を加える。全体のテーマと構造本書の核心は、「津波てんでんこ」の二面性:個別生存が共同体を救う一方、家族離散の悲劇を生むジレンマ。7つの章は各生存者の独立したエピソードで、時系列・テーマ別ではなく、ドラマチックな体験順。共通モチーフは:
  1. 咄嗟の判断と運:逆走、漂流、浮上などの物理的サバイバル。
  2. 家族・他者への想い:守れなかった後悔と、生き延びた使命感。
  3. 生の執着:死を拒む本能と、津波文化の遺産。
構造は章立て中心で、導入部で大槌町の震災概要を概説。各章末に著者の考察を挿入し、「てんでんこ」の意味を深掘り。良い話(英雄的救出)だけでなく、残酷な選択(高齢者を置く)を赤裸々に描き、読者の倫理的葛藤を誘う。レビューで「TV映像の補完として最適」「ハザードマップ再考の契機」との声多数。全体として、被災の「即時性」と「後遺症」を文化人類学的に解剖。章ごとの詳細な要約第1章 生還への逆走と漂流津波襲来時の大槌町中心部(箱崎地区)を描く。主人公は漁師の男性(仮名:佐藤)。地震後、家族を連れて高台へ逃げるが、津波の速さに追いつかれ、濁流に呑まれる。逆流に乗じて家屋の屋根を掴み、漂流しながら生存。家族は一部犠牲に。著者は、佐藤の「てんでんこ」実践(互助せず個別逃走)を称賛しつつ、離散の孤独を強調。エピソード:津波の高さ15m超の壁が迫る中、佐藤が妻に「走れ!」と叫び別行動。漂流中、がれきにしがみつき、肺に泥水を詰めながらの絶望描写が生々しい。テーマ:運命の逆転と、生存者の「なぜ俺だけ?」の問い。第2章 津波の底から浮上する海底沈没からの生還。主人公は商店主の女性(仮名:田中)。沿岸の店で地震に遭い、津波で海へ引きずり込まれ、底に沈む。息を止めて浮上を試み、波間に吐き出される。著者の取材で、田中の「肺の限界」と「本能的浮上」を詳細に再現。家族は全員生存も、PTSDの後遺症を描く。エピソード:沈没中、過去の津波伝承(「海の底は静か」)がフラッシュバック。浮上後、がれき山で家族と再会する感動シーン。テーマ:身体的本能の力と、津波の「静かな恐怖」。第3章 ママは何があっても絶対に帰ってくる母親の家族愛に焦点。主人公は主婦(仮名:鈴木)。幼子を抱えて逃げるが、津波に追われ、子を高台に預け自身は流される。約束の言葉「ママは絶対帰る」がモチーフ。生還後、子どものトラウマケアに奔走。著者は、女性の「母性てんでんこ」(子優先の自己犠牲)を分析。エピソード:流されながら子どもの顔を思い浮かべ、屋根に飛び移る。帰宅時の再会涙の描写が胸を打つ。レビューで「親の絆に涙」との声。テーマ:愛の力と、生存の「約束」。第4章 こんなところで死んでたまるか不屈の精神を描く。主人公は高齢漁師(仮名:山田、70代)。津波で家屋崩壊に巻き込まれ、がれき下敷きに。諦めず這い上がり、漂流を生き抜く。著者は、山田の「死ぬかよ!」という叫びを、津波文化の遺産として位置づけ。エピソード:がれきに挟まれ骨折しながら、息子への遺言代わりに「生きろ」と独り言。生還後、復興作業に励む姿。テーマ:加齢を超えた生の執着と、死生観の変容。第5章 保母さんの咄嗟の判断保育士の英雄譚。主人公は保育園職員(仮名:高橋)。園児30人を抱えて避難中、津波に襲われ、咄嗟に「てんでんこ」指示:子どもを分散逃走させ自身は殿(最後尾)。死者ゼロの奇跡。著者は、高橋の「5勝2敗1分」(過去の訓練で培った判断力)を詳細に。レビューで「最後の5勝2敗1分の話が刺さった」と絶賛。エピソード:津波の轟音中、「みんな走って!」と叫び、園児を高台へ。自身は流され生還。テーマ:集団生存のジレンマと、教育者の責任。第6章 俺は命に卑しいから自己保身の告白。主人公はサラリーマン(仮名:小林)。家族を置いて単独逃走し、生還。後悔の念に苛まれるが、「命に卑しい俺が生き残った」と自嘲。著者は、これを「てんでんこ」の本質(個別優先のエゴ)と解釈。エピソード:妻に「先に逃げろ」と言い残し、自身は屋根伝いに脱出。家族一部犠牲の罪悪感描写が痛切。テーマ:生存者の「卑しさ」と、倫理的葛藤。第7章 最後に見た息子の姿父親の喪失と再生。主人公は漁師(仮名:渡辺)。息子を背負って逃げるが、津波で振り落とされ、最後に息子の姿を見る。息子死亡も、自身生還。著者は、渡辺の「守れなかった」後悔を、復興への原動力として描く。エピソード:背負った息子が「パパ、怖い」と泣く中、波に飲まれる。生還後、息子の墓前で誓うシーン。テーマ:別れの記憶と、生きる使命。付録インタビュー 碇川豊・大槌町長に聞く震災時町長(碇川豊、当時)の証言。役場屋根に逃れ生還した経緯と、町の被害概況(死者1割超、行政機能麻痺)。復興計画(高台移転、防潮堤)と「てんでんこ」の教訓を語る。著者は、行政視点から生存率の分析(避難成功率高かったが、集団避難の失敗)を加え、未来志向で締めくくる。主要エピソードの抜粋
  • 逆走の漁師:津波の壁に逆らい、屋根を次々飛び移り漂流。肺に泥が詰まり「息ができない」絶望。
  • 浮上の女性:海底で「もう終わり」と諦めかけたが、子どもの声が幻聴で浮上を促す。
  • 母親の約束:流されながら「ママ帰るよ」と心で繰り返し、奇跡の生還。再会時の抱擁。
  • 高齢者の不屈:がれき下で「死ぬたまるか」と這い上がり、息子に「生きててよかった」と。
  • 保育士の判断:園児に「てんでんこ!」と叫び、自身犠牲覚悟。生還後、「子どもたちの笑顔が救い」。
  • 卑しい命:妻を置いて逃げ、「俺は臆病者」と自責。だが、「生きて償う」と復興参加。
  • 息子の姿:振り落とされた息子が手を伸ばす最後の光景。墓前で「パパが守れなかった」と涙。
結論と評価本書は、津波の「激流」の中で繰り広げられた「個別サバイバル」を、7つのドラマで浮き彫りに。「てんでんこ」の教えが命を救いつつ、心に傷を残す二面性を問い、読者に「生きる選択」の重さを突きつける。震災10年超の今、防災教育や心理ケアの文脈で再評価。Amazonレビュー(4.0/5.0)で「今を生きる尊さを再確認」「津波の恐怖が体感できる」との声、読書メーター(3.71/5.0、29人)で「生々しい証言に感謝」「複雑な感情を呼ぶ」。批判点は「生存者偏重で全体像不足」だが、全体として「被災本の傑作」。根岸の言葉:「生と死の境で、人は本当の自分を知る」。この本は、災害の「てんでんこ」を、普遍的な人間ドラマとして昇華させる一冊。
生存者
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著者:根岸康雄
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