『生存者 3.11大槌町、津波てんでんこ 』
根岸康雄/著 双葉社 2012.3
2011年3月11日、岩手県大槌町を津波が襲い、1400人を超える犠牲者が出た。巨大津波に巻き込まれながら生き延びた人たちは、どのようにして津波の濁流の中を生き残ったのか。生存者の激烈な体験と想いを描き切る。
『生存者 3.11大槌町、津波てんでんこ』 根岸康雄/著 (双葉社、2012年3月刊) 詳細な要約著者紹介と執筆背景根岸康雄(1955年、横浜市生まれ)は、ノンフィクションライター。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経てフリーランスに転身。社会問題や人間ドラマをテーマにした取材記を専門とし、死生観や日常の裏側を探る作風で知られる。主著に『死ぬ準備』(2008年、講談社)、『ずっと書きたかった親への手紙』(2010年、双葉社)、『世界が大切にするニッポン工場力』(2011年、講談社)などがあり、被災地取材では人間の「生の執着」を赤裸々に描く。震災関連では本書が代表作。本書は、2011年3月11日の東日本大震災・津波で壊滅した岩手県大槌町(人口約1万5千人、死者・行方不明者約1,800人、町民の1割超)を舞台に、津波に呑まれながら生還した生存者7人の証言を軸にしたノンフィクション。震災直後から著者が現地に赴き、生存者への詳細なインタビューを実施。刊行は震災1年未満の2012年3月で、約254ページ。双葉社単行本として、迫真の体験談を「津波てんでんこ」(三陸沿岸の津波文化で、「自分の身は自分で守れ」「互助より個別逃走を優先せよ」という教え)の観点から分析。目的は、津波の「生と死の紙一重」を描き、生存のメカニズム(咄嗟の判断、運命、心理)と喪失の痛みを伝えること。全体のトーンは、客観的な取材記述と生存者の生々しい語りが融合し、読者に「生き延びた罪悪感」と「命の尊さ」を問いかける。レビューでは、「津波の恐怖が活字で蘇る」「生存者の選択に心揺さぶられる」と高評価(Amazon平均4.0/5.0、読書メーター3.71/5.0)。大槌町の文脈(リアス式海岸の低地集落、過去の明治・昭和津波経験)を背景に、行政の防災限界も示唆。付録の町長インタビューで復興の視座を加える。全体のテーマと構造本書の核心は、「津波てんでんこ」の二面性:個別生存が共同体を救う一方、家族離散の悲劇を生むジレンマ。7つの章は各生存者の独立したエピソードで、時系列・テーマ別ではなく、ドラマチックな体験順。共通モチーフは:
- 咄嗟の判断と運:逆走、漂流、浮上などの物理的サバイバル。
- 家族・他者への想い:守れなかった後悔と、生き延びた使命感。
- 生の執着:死を拒む本能と、津波文化の遺産。
- 逆走の漁師:津波の壁に逆らい、屋根を次々飛び移り漂流。肺に泥が詰まり「息ができない」絶望。
- 浮上の女性:海底で「もう終わり」と諦めかけたが、子どもの声が幻聴で浮上を促す。
- 母親の約束:流されながら「ママ帰るよ」と心で繰り返し、奇跡の生還。再会時の抱擁。
- 高齢者の不屈:がれき下で「死ぬたまるか」と這い上がり、息子に「生きててよかった」と。
- 保育士の判断:園児に「てんでんこ!」と叫び、自身犠牲覚悟。生還後、「子どもたちの笑顔が救い」。
- 卑しい命:妻を置いて逃げ、「俺は臆病者」と自責。だが、「生きて償う」と復興参加。
- 息子の姿:振り落とされた息子が手を伸ばす最後の光景。墓前で「パパが守れなかった」と涙。