2014年4月30日水曜日

『東日本大震災と憲法 』

『東日本大震災と憲法  この国への直言 早稲田大学ブックレット

水島朝穂/著   早稲田大学出版部 2012.2

震災後間もなく福島第一原発20キロ圏の南相馬市から大槌町吉里吉里地区まで800キロにわたる現地取材を敢行した憲法研究者が、憲法に基づく「人権」「平和」「自治」による復興への課題と展望をつづる。

『東日本大震災と憲法 この国への直言 早稲田大学ブックレット「震災後」に考える』 水島朝穂/著 (早稲田大学出版部、2012年2月刊) 詳細な要約著者紹介と執筆背景水島朝穂は、1953年東京都府中市生まれの憲法学者。1983年に札幌学院大学助教授、1989年に広島大学助教授を経て、1996年より早稲田大学法学部教授(法学学術院教授)。法学博士。専門は憲法学と法政策論で、特に日本国憲法の平和主義(第9条)と基本的人権保障を擁護する立場で知られる。著書に『憲法9条と軍事優先の時代』(岩波新書、2014年)、『改憲のトリック』(岩波書店、2017年)など多数。ホームページ「平和憲法のメッセージ」(asaho.com)で連載する「直言」は、憲法問題をタイムリーに論じる人気コーナーで、メディア出演も多い。震災関連では、改憲勢力が災害を口実に憲法改正を推進する動きを鋭く批判。本書は、2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原発事故直後、著者が震災発生から約1か月以内に福島県南相馬市(原発20km圏内)から岩手県大槌町吉里吉里地区まで約800kmを現地取材した記録を基に、憲法の視点から復興を論じた小冊子。早稲田大学ブックレット「震災後」に考える」シリーズ第9弾として刊行され、約104ページ(本体940円)。ホームページの「直言」連載から震災関連記事をピックアップ・編集したもので、震災から約1年後の2012年2月刊行。目的は、震災の惨禍を「想定外」の方便で片づける政府・行政の姿勢を批判し、憲法の「人権」「平和」「自治」の原則に基づく真の復興を提言すること。トーンは、現場の生々しい観察と憲法学者の鋭い分析が融合した「直言」風で、読者に「この国への警鐘」を鳴らす。レビューでは、「震災直後の熱い筆致が胸を打つ」「改憲論の布石を暴く一冊」と高評価(Amazon平均4.5/5.0、読書メーター4.0/5.0、レビュー件数少なめ)。大槌町や南相馬の具体例を挙げ、被災者の声を通じて憲法の現実性を強調。出版背景として、震災後の改憲論高まり(自民党の9条改正推進)に対するカウンターとして位置づけられる。全体のテーマと構造本書の核心は、震災・原発事故を「憲法の試金石」と位置づけ、政府の対応の憲法違反を指摘し、復興の指針として「人権保障」「平和主義」「地方自治」の三原則を挙げる。テーマは3つ:
  1. 現場の惨状と政府の無責任:取材を通じて「想定外」の言葉が被災者の苦しみを覆い隠す実態を暴露。
  2. 憲法の視点からの復興:多様なアクター(自衛隊、NPO、住民)の活動を評価しつつ、国会・政府の「政治手動」(事後対応の遅れ)を批判。
  3. 歴史的教訓と未来志向:足尾銅山鉱毒事件や社会学者ウルリッヒ・ベックの「リスク社会」論を援用し、原発依存の「連帯の芽生え」を提言。
構造は2部構成。第1部は取材エッセイ風の現場報告(約60%)、第2部は憲法分析の論考(約40%)。時系列的に震災直後から復興へ移行し、良い話(住民の連帯)だけでなく、行政の硬直性や犠牲者の補償不足を厳しく糾弾。レビューで「短いが濃密」「憲法学の入門書としても使える」との声。全体として、震災を憲法改正の機会ではなく、憲法実践の契機とする著者の「この国への直言」が貫く。章ごとの詳細な要約第1部 現場を行く震災発生から1か月以内の現地取材を日誌風に記録。福島から岩手沿岸までを縦断し、被災地の惨状と政府・自衛隊の対応を克明に描写。著者は自ら車を運転し、放射能汚染地帯やがれき山を歩き、被災者インタビューを交え、「想定外」の欺瞞を暴く。
  • 想定外という言葉-東日本大震災から一カ月:震災1か月後の総括。政府の「想定外」発言が、事前防災の怠慢を隠蔽すると批判。福島原発事故の「チェルノブイリ級」被害を挙げ、憲法25条(生存権)の観点から国家責任を問う。エピソード:南相馬の避難民が「想定外なら補償を」と訴える声。
  • 災害派遣の本務化へ:自衛隊の災害派遣を評価しつつ、憲法9条下での「専守防衛」からの転換を提言。阪神淡路大震災との比較で、震災後の自衛隊活用が「本務化」すべきと主張。エピソード:自衛隊のヘリ救助が命を救う一方、遅延が死者を増やした事例。
  • 郡山から南相馬へ:福島県郡山市から南相馬市(原発20km圏)へ。放射能汚染の恐怖と避難の混乱を描く。憲法13条(幸福追求権)から、避難指示の曖昧さが人権侵害と分析。エピソード:仮設住宅での高齢者の孤立、Jアラートの機能不全。
  • 「トモダチ」という作戦:米軍の「トモダチ作戦」(救援活動)を紹介。日米安保の限界を指摘し、憲法9条の平和主義が国際支援を可能にした点を肯定的に。エピソード:米軍ヘリが孤立家族を救出するが、日本側の情報共有不足が障害に。
  • 「避難所」になった女川原発:宮城県女川原発の事例。運転停止中だったため被害軽微も、避難所化の皮肉を描く。原発政策の憲法違反(環境権)を予見。エピソード:原発労働者の被曝リスクと住民の不信。
  • 石巻と大船渡-被災地における新聞の役割:石巻・大船渡の津波被害地。新聞の情報提供が被災者の精神的支えとなった点を強調。憲法21条(表現の自由)から、メディアの復興役割を論じる。エピソード:地元紙の号外が避難を促し、死者を減らした。
  • 南三陸、気仙沼、釜石など-被災地の自衛隊:岩手・宮城沿岸の自衛隊活動。がれき撤去や炊き出しを称賛しつつ、憲法下での「非軍事」活用を提言。エピソード:釜石の「命の砦」小学校避難の成功と、自衛隊の補完役。
  • 陸前高田の人々:岩手県陸前高田市の全壊状況。死者2000人超の悲劇を、自治体の無力さを憲法92条(地方自治)で批判。エピソード:市長の「復興ビジョン」語り、住民の連帯。
  • 大槌町吉里吉里:大槌町吉里吉里地区の漁村壊滅。津波の高さ16mと住民の「てんでんこ」避難を描き、歴史的津波記憶の重要性。エピソード:吉里吉里小の生存者と、失われたコミュニティの喪失感。
この部は本書の基調を形成。レビューで「取材の臨場感が圧倒的」「被災地の匂いがする」と絶賛。第2部 東日本大震災からの復興に向けて-憲法の視点から取材を踏まえ、憲法学者の分析。第1部の事例を「人権」「平和」「自治」のレンズで解釈し、復興の課題を提言。震災を憲法実践の機会とする。
  • 震災後初の憲法記念日に:2011年5月3日の憲法記念日を振り返り、震災が憲法の「生きる憲法」性を示したと主張。改憲論の台頭を警戒。
  • 大震災からの復興と憲法:憲法の三原則(人権25条、平和9条、自治92条)で復興を枠づけ。政府の復興基本法草案を「上から目線」と批判。エピソード:被災者の「自分たちの町を」声。
  • 大震災における多様なアクターの活動:自衛隊、NPO、ボランティア、米軍の役割を評価。憲法下の「非国家アクター」の重要性を強調。課題:調整の欠如。
  • 災害と犠牲-補償をどうするか:死者・行方不明者2万人超の補償制度の不備を、憲法29条(財産権)で論じる。原発被害者の賠償遅れを国家責任と断罪。
  • 国会と政府はどうだったか-「政治手動」の結果:国会審議の不在と菅政権の混乱を「政治手動」(事後対応)と命名、憲法41条(国会主権)違反と分析。野党の協力不足も指摘。
  • 足尾銅山問題とフクシマ-田中正造の視点:明治の足尾銅山鉱毒事件(田中正造の抵抗)と福島事故を重ね、環境破壊の国家責任を憲法で問う。原発再稼働反対の教訓。
  • 新しい連対の芽生え-ウルリッヒ・ベックの主張から:社会学者ベックの「リスク社会」論を援用し、震災が「新しい連帯」(市民・専門家・行政の協力)を生むと展望。憲法の「未来志向」を提言。
この部は本書の理論的クライマックス。レビューで「憲法が身近になる」「提言の鋭さが光る」。主要エピソードの抜粋
  • 南相馬の放射能恐怖:避難民の「見えない敵」への不安。著者がマスク姿でインタビュー、「憲法は放射能も守るのか」との問い。
  • 女川原発の皮肉:停止中だった原発が避難所に。労働者の「命がけの点検」エピソードで、平和憲法のエネルギー政策批判。
  • 吉里吉里の「てんでんこ」:住民の即時避難成功も、家族離散の悲嘆。自治の限界を象徴。
  • 足尾とフクシマの重ね:田中正造の「毒を海に流すな」叫びを、原発汚染水に重ね、歴史的連続性。
  • ベックの連帯:震災後のNPOブームを「リスクの共有」として、憲法13条の幸福権実現の希望に。
結論と評価本書は、震災の惨禍を憲法の「直言」として昇華し、政府の無策を糾弾しつつ、住民中心の復興を訴える。震災10年超の今、原発廃炉や防災基本法改正の文脈で再読価値高し。著者の言葉:「震災は憲法の校正。想定外を許さぬ国へ」。Amazonレビュー(4.5/5.0)で「短いが深い」「平和憲法の教科書」、読書メーター(4.0/5.0、少レビュー)で「現場と理論のバランス抜群」。批判点は「改憲反対偏重」だが、全体として「震災後の必読」。この本は、災害大国日本に、憲法を「生きる道具」として問いかける一冊。
東日本大震災と憲法
東日本大震災と憲法
著者:水島朝穂
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