『チェルノブイリの噓』
アラ・ヤロシンスカヤ/著 緑風出版 2016.3
情報が伝えられず、住民が大量に被曝したチェルノブイリ原発事故。事故に疑問を抱いた新聞記者が、被害の実態を隠蔽しようとするソヴィエト体制の妨害にあいながらも、粘り強く取材を続け、真実に迫ったインサイド・レポート。
『チェルノブイリの嘘』 アラ・ヤロシンスカヤ/著 村上茂樹/訳 緑風出版 2016年3月(四六判上製・552頁・ISBN978-4-8461-1603-3) 徹底的詳細要約
本書は、ベラルーシ系ウクライナ人ジャーナリストで元ソ連人民代議員のアラ・ヤロシンスカヤ(Alla Yaroshinskaya)が、1986年のチェルノブイリ原発事故直後から30年近くにわたり、命がけで追い続けた「ソ連(および後継ウクライナ政府)の国家規模の隠蔽工作」を暴いた、圧倒的な当事者ドキュメントである。原題はロシア語で『ЧЕРНОブЫЛЬ Большая ложь』(チェルノブイリ 大いなる嘘)。1992年にライト・ライブリフッド賞(「もう一つのノーベル賞」)を受賞した著者の代表作で、日本語版はこれまで刊行された『チェルノブイリ極秘』(1994年、平凡社)とは別物の完全版・決定版に相当する。 核心テーマは**「情報隠蔽こそが第二のチェルノブイリ」**。事故直後から住民に放射能汚染の事実を一切知らせず、メーデー行進を強行させ、汚染地域に住み続けさせ、被曝による健康被害を「心理的なもの」と片づけ、事故処理作業員(リクビダートル)を「英雄」として利用しつつ見殺しにした国家の犯罪を、一次資料・秘密議事録・現地取材・議会活動で徹底的に暴き出す。ペレストロイカ期からソ連崩壊、独立後の腐敗ウクライナ政府との闘いまでを当事者視点で描き、「核の時代に生きる人類への警告」として結ぶ。ロザリー・バーテル(反核医師・環境活動家)による序文も収録。 全21章+序章・終章+3資料+訳者あとがきで構成。著者の新聞記者時代から人民代議員時代までの軌跡を軸に、被害者の生の声、科学者の証言、クレムリンの極秘文書を織り交ぜ、ジャーナリズムと政治闘争の記録が融合した力作である。序文 死の街からの報告(ロザリー・バーテル)バーテルがチェルノブイリ被災地を訪れた体験を基に、公式統計が隠す真実の被害規模を指摘。著者の勇気と本書の意義を高く評価。序章 チェルノブイリの村で生きる事故直後の著者の故郷ジトーミル州の日常からスタート。放射能汚染の実態を知らされず、子どもたちが外で遊び、妊婦が汚染された食物を摂取する現実を描く。第1章 ルードニャ=オソシニャ、それは騙された村著者が最初に取材した汚染村の事例。住民に「安全」と偽り、避難を遅らせ、汚染食品を食べ続けさせた当局の欺瞞を具体的に暴く。第2章 進入禁止! 生命の保障はない「進入禁止区域」の実態。汚染度が極めて高い地域に住民を住まわせ続け、避難を拒否・遅延させた政策の矛盾と犯罪性を検証。第3章 ジトーミルにおける洗脳教育学校・メディアを通じた「放射能は安全」というプロパガンダ。子どもたちへの「洗脳教育」の実例を、教師・生徒の証言で描く。第4章 議会での虚しい叫び1989年、人民代議員に選出された著者が議会でチェルノブイリ問題を追及するも、官僚の壁に阻まれる過程。民衆の怒りと政治的孤立を克明に記録。第5章 極秘:チェルノブイリソ連政府の極秘指令・文書を初公開。当局が放射線量を故意に低く操作し、「許容限度」を引き上げて住民被曝を容認した事実を暴く。第6章 罰なき罪事故の責任者(原子力省・共産党幹部)が一切処罰されなかった構造。ゴルバチョフ体制下の「罰なき犯罪」を追及。第7章 かばいあい省庁・科学アカデミー・メディアによる相互擁護の「かばい合い」システム。被害データを改ざん・隠蔽するメカニズムを解明。第8章 クレムリンのなかの権謀術数ゴルバチョフ政権中枢での駆け引き。事故情報を国際社会に隠蔽するための政治的計算を、内部文書で明らかにする。第9章 異端の科学者公式見解に異議を唱えた科学者たち(異端者)の証言と迫害。被曝の健康影響を認めようとした医師・研究者の闘い。第10章 地球規模の大惨事チェルノブイリの放射能がヨーロッパ全土・世界に及んだ事実。公式発表が「局所的事故」と偽った点を強調。第11章 生命と原子炉を天秤にかけるリクビダートル(事故処理作業員)の壮絶な現実。爆発を食い止めた英雄たちが、放射線障害で次々と死んでゆく過程と、当局による「見殺し」政策。第12章 赤ん坊は煙草を喫わない子ども・妊婦・乳児の被曝被害。甲状腺がんなどの増加を「煙草のせい」などと結びつける当局の詭弁を粉砕。第13章 被災地を再び訪れて事故後数年経過した汚染地域の再取材。健康被害の進行と、住民の絶望・抵抗の声。第14章 ぼくはミルクに指を浸すだけさ子どもたちの生の証言。汚染された牛乳を飲まされながらも「指を浸すだけ」と強がる少年の言葉が象徴する、日常化した被曝の恐怖。第15章 クレムリンの住人の四〇の秘密議事録著者が入手した最高機密「40の秘密議事録」を全文引用・分析。ゴルバチョフら首脳が知りながら隠蔽を決定した瞬間を暴露。第16章 戦いのあとの情景ソ連崩壊直後の混乱期。著者の議会活動の総括と、勝利と敗北の両面。第17章 ゴルバチョフは言った。「あなたは組織の面子を守っているんだ」ゴルバチョフ本人との直接対決シーン。著者が面責した際の、組織防衛優先の発言を記録。第18章 責任は明らかなのに、裁判は開かれまい事故責任者の免責構造。法廷闘争の挫折と、司法の腐敗。第19章 チェルノブイリ被災者抵抗の記録被災者団体・自助組織の抵抗運動。公式支援を拒否し、自ら声を上げた人々の記録。第20章 広がる〝嘘つき症候群〟「被曝被害は嘘」という風潮が社会に広がる過程。メディア・科学界の二次加害を批判。第21章 だれがチェルノブイリで儲けるのか?事故後、汚染除去事業や補償金で利益を得た企業・官僚の腐敗を追及。終章 堪忍袋の緒が切れた著者の最終的な怒りと、核時代への警鐘。「嘘は繰り返される」というメッセージで締めくくる。資料
- ソ連・チェルノブイリ関連略年表(1957〜1991年)
- 放射能と放射線と単位について
- 放射能の影響と閾値について
- 資料性:著者自身が集めた極秘文書、議事録、被害者証言が大量に引用。科学的データも正確に扱い、「公式統計の嘘」を数字で論破。
- 文体:冷徹な調査報告でありながら、被災者の痛みや著者の怒りが生々しく伝わる。ジャーナリスト魂と政治家としての行動力が融合。
- 現代的示唆:福島原発事故後の日本で読むべき書物として、2016年に刊行。情報隠蔽・被曝基準の操作・被害者切り捨てという「核の常套手段」が、旧ソ連だけでなく普遍的に存在することを示す。
- 読後感:552頁の大著だが、章立てが明確で各章が独立したエピソードとしても読める。レビューでは「衝撃の事実が次々と出てくる」「国家の嘘の恐ろしさを骨身に染みて知る」と評されることが多い。
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