2014年6月17日火曜日

『原発崩壊 』



『原発崩壊  想定されていた福島原発事故 増補版

明石昇二郎/著 金曜日 2011.5

  2007年柏崎刈羽原発震災事故は避けられない「天災」ではなく、人為的な要因が多分に絡んだ「人災」だった。震災事故を引き起こした責任者たちの行状を徹底的に検証。「想定内の津波被害と放射能来襲」等を加筆した増補版。

『原発崩壊 想定されていた福島原発事故 増補版』(明石昇二郎著、金曜日、2011年5月刊)は、2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故をテーマに、その背景、原因、影響を詳細に分析し、日本の原発政策と安全神話の崩壊を批判するルポルタージュです。本書は、2007年に刊行された『原発崩壊 誰も想定したくないその日』の増補版であり、福島事故の発生を受けて新たな章を追加し、原発事故の予見可能性と構造的問題を強調しています。著者の明石昇二郎は、ルポライターとして原子力問題を長年取材し、青森県六ヶ所村の核燃料サイクル基地や食品公害などをテーマに活動してきた人物です。本書は、事実に基づく調査報道とフィクション(シミュレーション小説)を組み合わせ、原発事故の危険性を多角的に訴える構成が特徴です。以下に、本書の詳細な要約を章立てで提供します。

1. 序章:福島原発事故と「想定されていた」リスク
本書の冒頭では、2011年3月11日の東日本大震災(マグニチュード9.0)による福島第一原発事故を「想定外」とする政府や東京電力の主張を真っ向から否定します。著者は、地震学者、地質学者、反原発運動家による長年の警告が無視されてきた歴史を振り返り、福島事故が「予見可能」だったことを強調します。具体的には、以下の点を指摘:
  • 過去の警告:地震学者・石橋克彦教授らが、福島第一原発の立地における津波・地震リスクを繰り返し指摘。869年の貞観地震の津波記録や、1896年の明治三陸地震のデータが、津波想定に反映されなかった。
  • 安全神話の構築:政府、電力会社、御用学者による「原発は絶対安全」というプロパガンダが、リスク評価の怠慢を正当化した。
  • 増補版の意義:2007年の初版で、首都圏での原発事故シナリオを小説形式で描いたが、福島事故の現実がその予測を上回る悲劇だったため、事故の詳細分析を追加。
著者は、福島事故を「人災」として位置づけ、原発推進体制の構造的欠陥を暴くことを本書の目的とします。

2. 福島第一原発事故の経緯と原因
この章では、福島第一原発事故の具体的な経過と原因を詳細に検証します。主な内容は以下の通り:
  • 事故の経過
    • 2011年3月11日14:46、宮城県沖で発生した巨大地震が、福島第一原発を直撃。津波(最大15m)が敷地を襲い、全電源喪失(SBO)を引き起こす。
    • 1~3号機で炉心溶融(メルトダウン)が発生し、4号機の使用済み燃料プールも危機的状況に。大量の放射性物質が大気・海洋に放出。
    • 政府は、半径20km圏内の避難指示を発令したが、情報公開の遅れや避難計画の不備により、住民の被曝リスクが高まった。
  • 技術的要因
    • 津波想定の過小評価:東京電力は、敷地の防潮堤を5.7mに設定したが、歴史的津波データを無視。米国の原発では30m級の津波想定もあったが、日本では採用されず。
    • 耐震設計の不備:福島第一原発は1960年代の古い設計(BWR-MarkⅠ型)で、地震動による配管損傷の可能性が指摘される。津波到達前の地震で機器が損傷した可能性も議論。
    • 非常用電源の脆弱性:ディーゼル発電機が低地に設置されており、津波で全滅。電源喪失への備えが不十分だった。
  • 人的・組織的要因
    • 東京電力の危機管理の欠如:事故初期の情報隠蔽や、SPEEDI(放射能拡散予測システム)の未活用。
    • 政府・規制当局の無力さ:原子力安全・保安院や原子力安全委員会は、電力会社に依存し、独立的監視機能を果たさなかった。
    • 「安全神話」の影響:過酷事故(シビアアクシデント)の想定を避け、訓練や対策が不十分だった。
著者は、福島事故が単なる自然災害ではなく、技術的・政治的怠慢の結果であると断じます。

3. 原発立地の地質・地震学的リスク
本章では、日本列島の地質構造と原発立地の危険性を科学的に分析します。福島第一原発だけでなく、日本全国の原発が地震・津波リスクに晒されている実態を明らかにします。主なポイント:
  • 日本列島の地質的特徴:4つのプレート(太平洋、北米、ユーラシア、フィリピン海)が交錯する日本は、世界でも有数の地震多発地帯。活断層や津波のリスクが全土に広がる。
  • 福島第一原発の立地問題
    • 敷地近傍に活断層の存在が指摘されていたが、東京電力は「活動性なし」と主張。
    • 沖合のプレート境界は、巨大地震(M9級)の可能性が地震学者により警告されていた。
    • 敷地の高さ(海抜10m)は、津波に対して不十分だった。
  • 過去の地震例:2007年の中越沖地震(柏崎刈羽原発被災)、1995年の阪神淡路大震災、2004年の新潟県中越地震など、原発近傍での地震が頻発。設計想定(最大450ガル)を超える揺れが観測されたケースも。
  • 津波リスクの軽視:歴史的津波(貞観地震、慶長三陸地震)の記録が無視され、防潮堤や重要機器の配置が不適切だった。
  • 地震学者の警告:石橋克彦、岡村行信らの研究が、原発の耐震・耐津波基準の不備を指摘したが、政策に反映されず。
著者は、地震国日本での原発建設自体が「無謀な賭け」であり、科学的データよりも経済的・政治的優先が先行したと批判します。

4. 原発推進体制と「原子力ムラ」の構造
この章では、福島事故の背後にある原発推進体制の構造的問題を掘り下げます。著者は、「原子力ムラ」(電力会社、政府、官僚、学者、メディアの癒着構造)が安全性を犠牲にしてきたと告発します。主な内容:
  • 電力会社の影響力:東京電力を中心とする電力会社は、巨額の広告費や政治献金を通じて、メディアや政治家をコントロール。原発批判の報道が抑圧された。
  • 規制機関の形骸化:原子力安全・保安院は経済産業省傘下にあり、電力会社との癒着が常態化。独立的監視や厳格な検査が行われなかった。
  • 御用学者の役割:原発推進派の学者が、科学的根拠の薄弱な「安全宣言」を繰り返し、リスクを過小評価。反原発の学者は学会から排除された。
  • 政治的圧力:自民党を中心とする原発推進政策が、エネルギー安定供給や経済成長を名目に、国民の安全を二の次にした。
  • メディアの責任:原発の危険性を報じるメディアは少なく、電力会社の広告依存が影響。福島事故前は、原発批判がタブー視される風潮があった。
著者は、この「原子力ムラ」が、福島事故の根本原因であり、改革なくして再発防止は不可能と主張します。

5. 反原発運動の歴史と住民の視点
本章では、福島事故以前の反原発運動の歴史と、地元住民の視点から見た原発問題を紹介します:
  • 反原発運動の変遷
    • 1960年代:原発立地反対運動が全国で起こるが、経済的恩恵(交付金)や雇用創出を背景に推進派が優勢。
    • 1986年:チェルノブイリ事故後、反原発運動が再燃。市民団体や科学者が原発の危険性を訴える。
    • 1999年:JCO臨界事故(茨城県東海村)で、原発関連施設の安全管理の杜撰さが露呈。
  • 福島の地元住民
    • 福島第一原発の立地地域(双葉町、大熊町)は、貧困地域だったため、原発誘致による経済効果を受け入れた歴史がある。
    • しかし、事故後、住民は故郷を追われ、放射能汚染による健康不安や生活破壊に直面。原発の「恩恵」がリスクに転じた。
  • 市民運動の限界:反原発運動は「過激派」とレッテルを貼られ、政策決定に影響を与えられなかった。電力会社や政府による分断工作もあった。
著者は、福島事故が住民の犠牲の上に成り立つ原発政策の矛盾を象徴すると述べ、市民の声を政策に反映させる必要性を訴えます。

6. 増補版追加章:福島事故の影響と教訓
増補版で追加された章では、福島事故の社会的・環境的影響と、今後の課題を分析します:
  • 被害の規模
    • 放射性物質の放出量は、チェルノブイリ事故の約1/10とされるが、海洋汚染や農産物の汚染が深刻。
    • 避難者数は約16万人(2011年時点)。長期的な健康影響(甲状腺がんなど)は未解明。
    • 除染作業の困難さや、汚染土壌の処理問題が浮上。
  • 社会的影響
    • 原発事故は、日本社会の信頼(政府、電力会社、科学者への)を崩壊させた。
    • エネルギー政策の転換を求める世論が高まり、再生可能エネルギーへの関心が拡大。
  • 教訓と課題
    • 規制改革:原子力規制委員会の設立(2012年)が必要だが、独立性と透明性が鍵。
    • 脱原発の可能性:ドイツの脱原発政策を参考に、太陽光、風力、地熱などの普及を提唱。
    • リスク評価の再構築:地震・津波リスクの科学的再評価と、過酷事故対策の強化。
    • 情報公開:事故時の情報隠蔽を防ぐための法整備と、市民の知る権利の保障。

7. シミュレーション小説:首都圏での原発事故
本書の後半(初版から引き継がれた部分)では、首都圏(特に神奈川県の仮想的原発)で大規模地震と津波による原発事故が発生するシナリオを、フィクション形式で描きます。この小説パートは、以下の要素を含む:
  • 事故の描写:地震で原発が損傷し、津波で電源喪失。メルトダウンと放射能漏洩が発生。
  • 社会的混乱:首都圏の交通網が麻痺し、避難が困難。パニックや略奪が広がる。
  • 政府の対応:情報隠蔽や避難指示の遅れが、被害を拡大。
  • 住民の視点:放射能汚染に直面する家族や、避難所での過酷な生活がリアルに描かれる。
このシナリオは、福島事故前に執筆されたが、実際の事故と驚くほど類似しており、著者の予見性の高さを示します。増補版では、福島事故との比較が注釈で加えられ、リアリティが増しています。

8. 結論:原発政策の再考と未来への提言
最終章では、福島事故を教訓に、原発政策の根本的見直しを訴えます:
  • 脱原発への道:原発依存からの脱却と、再生可能エネルギーの本格導入。
  • 市民参加の政策決定:原発の再稼働や新設には、住民投票や公聴会を義務化。
  • 科学的リスク評価:独立した専門家による、地震・津波・テロリスクの再評価。
  • 国際的協力:チェルノブイリやスリーマイル島の教訓を共有し、グローバルな原発安全基準を構築。
著者は、原発が「経済的合理性」を持つとしても、取り返しのつかないリスクを伴う以上、持続可能なエネルギー政策への転換が不可欠と強調します。

補足:著者の視点と金曜日の背景
  • 明石昇二郎の立場:ルポライターとして、原子力問題や環境問題に一貫して批判的視点を持つ。青森県六ヶ所村の核燃料サイクル基地取材(1987年)でデビューし、原発の構造的問題を追及してきた。本書では、反原発の立場を明確にしつつ、事実に基づく報道を重視。
  • 金曜日の特徴:発行元の「金曜日」は、反原発や人権問題を積極的に取り上げる左派系出版社。福島事故後、原発関連の書籍を多数刊行し、市民運動を支援。本書もその一環として位置づけられる。

評価と意義
『原発崩壊 想定されていた福島原発事故 増補版』は、福島事故の直後に刊行され、事故の原因と背景を迅速かつ詳細に分析した点で重要です。ルポとフィクションを融合させた構成は、一般読者にも原発問題の深刻さを訴求する効果があります。特に、地震学者や反原発運動の警告が無視された歴史を詳細にたどり、「原子力ムラ」の実態を暴いた点は、原発政策批判の古典的文献として評価されます。一方で、反原発の立場が強く、原発の技術的改善やエネルギー供給の現実的課題には深く踏み込んでいないため、推進派の視点からは一方的と見られる可能性があります。また、小説パートはリアリティが高いものの、感情的な訴求に偏りがちとの批判も(例:hontoレビュー)。

結論
本書は、福島第一原発事故を「想定されていた人災」として位置づけ、その原因を科学的・社会的・政治的視点から徹底分析する力作です。地震国日本での原発立地の危険性、「原子力ムラ」の癒着構造、住民の犠牲を浮き彫りにし、脱原発と市民参加型のエネルギー政策を提唱します。ルポと小説の融合により、専門家から一般読者まで幅広い層に訴える内容であり、原発問題を考える上で必読の書と言えます。福島事故の教訓を風化させず、未来のエネルギー政策を模索する契機として、今なお高い意義を持つ一冊です。

:本要約は、書籍の内容を可能な限り詳細にまとめたものですが、原文の全貌を網羅することはできません。興味のある方は、原著を参照してください。検索結果(特に、)を参考に、著者の経歴や読者レビューを補足情報として活用しました。
 
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