『原発放浪記 』 全国の原発を12年間渡り歩いた元作業員の手記
川上武志／著 宝島社 2011.09
刺青者から元銀行員まで、好漢、悪漢入り混じった同僚たち。命じられた高放射線エリアへの突入、理不尽な解雇通告、ガン発症…。福島第一原発から浜岡原発まで、全国の原発を12年間渡り歩いた元作業員の手記。
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『原発放浪記 全国の原発を12年間渡り歩いた元作業員の手記』（川上武志著、宝島社、2011年9月）は、日本の原子力発電所で働く下請労働者の実体験を基にした手記であり、原発産業の過酷な労働環境とその裏側を赤裸々に描いたノンフィクションです。著者の川上武志は、30代から約12年間にわたり全国の原発を渡り歩き、特に浜岡原発（静岡県御前崎市）で5年以上働いた元作業員です。本書は、原発労働者の視点から、危険な作業環境、低賃金、劣悪な労働条件、そして原発産業の構造的な問題を詳細に記録しています。以下に、本書の詳細な要約を構成し、主要なテーマ、内容、構造について徹底的に説明します。
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### **1. 本書の背景と目的**
川上武志は、原発労働者として全国を渡り歩いた経験を基に、原発産業の「裏側」を一般の読者に伝えることを目的として本書を執筆しました。2011年3月の福島第一原発事故を背景に、原発労働者の実態が注目される中で出版された本書は、事故以前の原発労働の現実を詳細に描き、産業の構造的な問題を告発するものです。著者は、労働者の視点から見た原発の危険性や社会的不平等を明らかにし、読者に原発依存社会の再考を促します。
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### **2. 本書の構成**
本書は約256ページで構成され、著者の12年間の原発労働の経験を時系列的かつテーマ別に整理して記述しています。以下は、内容から推測される主な構成（具体的な章立ては書籍に基づくが、以下は論理的構造）：
1. **原発労働への入職**：著者が原発労働者となった経緯と初期の経験
2. **全国の原発での労働実態**：各地の原発での作業環境と労働条件
3. **浜岡原発での5年間**：特に詳細に描かれる浜岡原発での経験
4. **原発産業の構造と問題**：下請構造、健康リスク、社会的影響
5. **労働者の生活と心情**：原発労働者の日常と将来への不安
各章は、著者の個人的なエピソードや同僚労働者の証言、具体的な作業内容を通じて、原発労働の過酷さをリアルに描写しています。
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### **3. 詳細な内容要約**
#### **（1）原発労働者への道**
川上武志は、30代で経済的な理由や仕事の不安定さから原発労働の世界に足を踏み入れます。特別な資格や技術がなくても高収入を得られるという触れ込みに惹かれ、原発作業員として働き始めます。しかし、実際には高収入は一部の熟練作業員や元請企業に限られ、下請労働者の賃金は低く、危険な作業に従事することが多いことを知ります。
- **初期の経験**：初めての原発作業では、放射能汚染区域での作業や防護服の着用、厳しい安全管理に戸惑う。放射線量の測定や被曝管理のルールについても学びつつ、現場の過酷さに直面。
- **労働者の背景**：原発労働者の多くは、経済的に困窮した人々や地方の失業者、日雇い労働者など社会的弱者が多い。著者自身も、安定した職を求める中で原発労働に流れ着いた。
#### **（2）全国の原発を渡り歩く**
著者は、北海道から九州まで日本全国の原発で働き、その労働環境の違いや共通点を記録しています。各原発での作業内容や待遇は異なるものの、共通するのは下請労働者の過酷な条件と安全管理の不徹底です。
- **作業内容**：主に定期点検やメンテナンス作業に従事。放射能汚染区域での清掃、配管修理、機器の点検など、放射線被曝のリスクが高い作業が多い。
- **地域ごとの違い**：例えば、北海道の泊原発や九州の玄海原発では、作業環境や管理体制が異なるが、どこも下請労働者の待遇は劣悪。浜岡原発では、特に地震リスクの高さが労働者の不安を増大させていた。
- **労働者のコミュニティ**：原発労働者は短期契約で転々と移動するため、仲間との絆は強いが、将来への展望は乏しい。寮生活や劣悪な宿泊施設での生活も描かれる。
#### **（3）浜岡原発での5年間**
本書の中心は、著者が2003年から2008年まで浜岡原発で働いた5年間の詳細な記録です。浜岡原発は、地震多発地帯に位置し、津波リスクも指摘されていたため、労働者にとって特に緊張感の高い職場でした。
- **作業の危険性**：放射能汚染区域での作業は、厳しい時間制限や被曝量管理のもとで行われるが、スケジュール優先で安全が軽視される場面もあった。防護服の不備や熱中症リスクも問題。
- **死亡事故と健康被害**：著者は、浜岡原発での労働災害や同僚の健康被害を目撃。放射線被曝による長期的な健康リスク（がんや白血病など）が懸念されるが、補償や健康管理は不十分。
- **労働環境**：長時間労働、低賃金、劣悪な宿泊施設が日常。元請企業の社員と下請労働者の待遇格差が顕著で、下請労働者は「使い捨て」のように扱われる。
#### **（4）原発産業の構造的問題**
川上は、原発産業の多重下請構造が労働者を搾取する仕組みを詳細に描写します。
- **多重下請構造**：電力会社や大手ゼネコンが元請となり、作業のほとんどを中小の下請・孫請企業に委託。下請企業は低予算で危険な作業を請け負い、労働者にしわ寄せがいく。
- **賃金と待遇**：危険手当が支払われない場合が多く、被曝リスクに見合った報酬が得られない。社会保険や福利厚生も不十分で、労働者は不安定な立場に置かれる。
- **安全管理の不備**：放射線量の管理や安全教育は形式的に行われることが多く、現場では「作業効率」が優先されがち。事故や健康被害が隠蔽されるケースも報告。
#### **（5）労働者の生活と心情**
著者は、原発労働者の日常や心情をリアルに描写します。過酷な労働環境の中で、労働者たちは仲間との連帯感やユーモアで乗り切ろうとしますが、将来への不安や健康への懸念は拭えません。
- **日常の苦労**：寮や仮設宿泊施設での生活は劣悪で、プライバシーや休息が不足。食事や衛生環境も貧弱。
- **健康への不安**：放射線被曝の長期的な影響を恐れつつ、経済的理由から働き続ける労働者が多い。著者自身も、被曝量の累積や健康への影響を意識し始める。
- **社会からの疎外**：原発労働者は「必要だが見えない存在」として扱われ、社会的な認知や支援がほとんどない。福島事故後、こうした労働者の存在が注目されたが、待遇改善には繋がらなかった。
#### **（6）福島事故と原発労働の未来**
本書は2011年9月に出版され、福島第一原発事故（2011年3月）の直後に執筆されたため、事故への言及は限定的ですが、著者は浜岡原発のリスクを警告し、原発依存社会の問題を指摘します。
- **浜岡原発のリスク**：地震多発地帯に位置する浜岡原発は、福島事故と同様の災害リスクを抱えている。著者は、労働者として現場で感じた不安を率直に記述。
- **原発労働の未来**：福島事故を機に原発労働者の実態が注目されたが、構造的な問題は解決されていない。著者は、労働者の犠牲の上に成り立つ原発産業の持続可能性に疑問を投げかける。
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### **4. 本書の特徴と意義**
- **一次資料としての価値**：著者自身の12年間の原体験に基づく記述は、原発労働の現実を直接的に伝える貴重な資料です。労働者の視点から見た原発産業の描写は、他の報道や学術的な分析とは異なるリアリティを持つ。
- **福島事故後のタイミング**：2011年の福島事故後、原発に対する社会の関心が高まる中で出版され、反原発運動や労働問題の議論に貢献。
- **平易な文体**：専門知識がなくても読みやすい文体で、一般の読者に原発労働の過酷さを伝え、問題意識を喚起する。
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### **5. 著者の視点と文体**
川上武志の文体は、率直で飾らない口調が特徴です。自身の経験や感情を正直に綴りつつ、原発産業への批判や労働者の苦悩を淡々と描写します。ユーモアや仲間との交流を交えることで、過酷な内容に人間味を添え、読者に感情的な共感を呼び起こします。専門的なデータや分析よりも、現場の「生の声」を重視したアプローチが本書の魅力です。
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### **6. 社会的影響と評価**
『原発放浪記』は、原発労働者の実態を広く知らしめるきっかけとなり、以下のような評価を受けています：
- **労働者の視点**：原発問題を労働者の目線で描いた数少ない作品として、労働問題や社会的不平等に関心のある読者に支持された。
- **反原発運動への影響**：福島事故後の反原発運動の中で、原発産業の構造的問題を訴える資料として参照された。
- **限界**：学術的な分析や政策提言は少なく、個人的な体験談に重点が置かれているため、体系的な議論を求める読者には物足りない場合も。
読書メーターのレビューでは、「原発労働の過酷さがリアルに伝わる」「労働者の苦労を知るきっかけになった」といった声が多く、12件のレビューが投稿されています（）。[](https://bookmeter.com/books/4049813)
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### **7. 関連情報と補足**
- **出版情報**：宝島社、2011年9月刊行（ISBN: 978-4-7966-8535-1）、定価1,500円（税別）。
- **著者情報**：川上武志は、原発労働を辞めた後、静岡県御前崎市に居住。特別な肩書きや学歴はなく、一般の労働者としての視点が本書の強み（）。[](https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784796685351)
- **関連作品**：本書と似たテーマの作品として、高杉晋吾『原発の底で働いて』（緑風出版、2014年）、竜田一人『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』（講談社、2013-2015年）、堀江邦夫『原発ジプシー』（現代書館）などがある。本書は、浜岡原発に焦点を当てた点で高杉の作品と重なるが、全国の原発を網羅した点で独自性を持つ。
- **浜岡原発の背景**：浜岡原発は、2011年に菅直人首相の要請で運転停止となったが、再稼働の議論が続いている。地震リスクの高さが労働者の不安を増幅させていた。
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### **8. 結論**
『原発放浪記』は、川上武志の12年間にわたる原発労働の経験を通じて、原発産業の過酷な労働環境と構造的な問題を浮き彫りにする貴重な手記です。全国の原発を渡り歩いた著者の視点は、労働者の苦悩や連帯感、原発依存社会の矛盾をリアルに伝え、福島事故後の日本社会に重要な問題提起を行います。本書は、原発問題を技術や政策の議論だけでなく、労働者の人権や命の視点から捉え直す契機を提供する作品です。
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