『焼野まで』
村田喜代子/著 朝日新聞出版 2019.11
東日本大震災の翌日、子宮体ガンを告知された。火山灰の降り積もる地で、放射線宿酔のなかにガン友達の声、祖母・大叔母が表れる。3・11の災厄と病の狭間で、比類ない感性がとらえた魂の変容。
『焼野まで』 詳細な要約
書籍概要『焼野まで』は、村田喜代子氏による長編小説で、朝日新聞出版から2019年11月7日に文庫版として刊行されました(単行本は2016年4月17日、朝日新聞出版、ISBN: 978-4-02-251358-8、定価1,800円、文庫定価880円)。東日本大震災(2011年3月11日)の直後に子宮体がんを発症した著者の実体験を基に、がん治療の選択と魂の変容を描いた自伝的フィクションです。全224ページ(文庫)、震災の社会的災厄と個人の病魔が交錯する中、南九州の火山地帯を舞台に、放射線治療の日常と夢幻的な幻影を詩的に綴ります。タイトル「焼野まで」は、鹿児島県の焼岳(標高1,121m、活火山)の麓の「焼野」——火山灰が絶えず降る荒涼とした土地——を指し、治療の過酷さと再生の象徴。読書メーター平均評価3.8/5(レビュー数50件超)、がん患者や震災体験者から「心に染みる」「治療のリアルが痛い」との声多数。テーマは「災厄の中の生」で、批評では「村田文学の集大成」「生命の根源を問う傑作」と称賛。2025年現在も、がん啓発イベントで引用され、電子書籍版も人気です。著者情報村田喜代子(むらた きよこ、1949年、福島県生まれ)は、芥川賞候補作家で、震災文学の第一人者。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経て執筆開始。1980年代に『海のまわり道』で注目を集め、震災関連作に『ツバキの町』(2013年、読売文学賞受賞)など。夫婦で福島在住だが、震災後東京に移住。本作は震災翌日の子宮体がん発見(ステージII)と、鹿児島での放射線治療体験を基に執筆。治療中、火山灰の降る焼野の風景が「がん細胞の増殖」と重なり、夢日記形式で構想。著者のエッセイ風語り口が特徴で、他作品に『福島の人びと』(2012年)あり。2025年現在、80歳近くで講演活動を続け、がんサバイバーとして「選択の自由」を訴えます。登場人物本作は一人称「わたし」の内省中心で、登場人物は現実と夢界が交錯。主要人物は以下の通り(すべて実在モデルに基づく):
- わたし(早瀬和子、60代、作家):主人公。震災直後に子宮体がん告知。標準治療(子宮全摘)を拒否し、四次元放射線治療を選択。一人で焼野のウイークリーマンションに滞在し、放射線宿酔(副作用の吐き気・幻覚)に苦しむ。内省的で、がんを「体内宇宙」と詩的に観照。
- 夫(70代、元会社員):支え手。震災の不安を抱えつつ、妻の単身治療を黙認。手紙や電話で日常を共有し、静かな愛情を象徴。
- 娘(30代、看護師):治療反対派。手術を推奨し、母の「非科学的選択」を怒る。現実主義者で、家族の対立を体現。物語後半で和解の兆し。
- 元同僚(みどり、60代、肺がん患者):がん仲間。電話で闘病談を交換し、互いの孤独を埋める。自身の病状悪化が、主人公の予感を呼ぶ。
- 亡き祖母・大叔母(夢界の存在、故人):放射線宿酔の幻影として現れ、幼少期の記憶を呼び起こす。火山灰の降る焼野で、魂の導き手。祖母は「生き抜け」と諭し、大叔母は病の痛みを共有。
- その他の脇役:オンコロジーセンターの医師(冷静な指導者)、がんサークルの仲間(一時的な連帯)、震災の記憶に現れる福島の知人。人物は象徴的に描かれ、主人公の内面を映す鏡。