2018年11月24日土曜日

『東電刑事裁判で明らかになったこと』

『東電刑事裁判で明らかになったこと』

    海渡雄一/編著      彩流社   2018.10


 2008年の時点で、最大15.7メートルの巨大津波が押し寄せるという解析結果を得ていた福島第一事故。東電元役員3名が被告人となっている刑事裁判のポイントや、現時点までに明らかになっていることを解説する。
 
 先日、海渡雄一さんの編著、福島原発刑事裁判訴訟支援団・福島原発告訴団監修の、「東電刑事裁判で明らかになったこと」という本を御茶ノ水、丸善で購入して読んでみました。

 海渡雄一さんのウィキペディアはこちら→海渡雄一

 本では、東電刑事裁判のことについて書かれています。

 東電刑事裁判で訴えられている、双葉病院の悲劇のことについては時系列でわかりやすく書かれています。

 双葉病院の悲劇とは以下のようなものだったようです。(P14P16を抜粋)

 311日午後246分ころ/東日本大震災が発生
 11日午後330分頃/津波により、福島第一原発は全交流電源を喪失した
 12日午前5時ころ/政府、東京電力福島第一原発から半径10㎞圏内に避難指示
 12日午後2時頃/第1陣避難 バス5台で双葉病院の入院患者209人が、避難を開始する。入院患者129人と介護老人ホーム・ドーヴィル双葉の入所者98人が取り残される
 12日午後3時頃/自衛隊救助隊は12日午後3時頃に残留者を避難させるために郡山駐屯地出発したが、1号機で爆発で郡山に引き上げた
 13日午前中/オフサイトセンターから、県災対本部に「双葉病院に患者が残留している」と通報
 13~14日/自衛隊の救助隊は放射線防護のためタイベックススーツの到着を待っていたため、出発が遅延
 14日午前0時頃/自衛隊第12旅団輸送支援隊が郡山を出発
 14日午前4時頃/自衛隊第12旅団輸送支援隊が双葉病院とドーヴィル双葉に到着
 14日午前10時半/第2陣避難 自衛隊第12旅団輸送支援隊が双葉病院鈴木院長やドーヴィル双葉施設長とケアマネらと協力して、双葉病院患者34人とドーヴィル双葉入所者98人を乗せ、相双保健所に向けて搬送を開始した
 14日午前12時頃/自衛隊第12旅団輸送支援隊が相双保健所に到着したが、受け入れを拒否される。このあと、午後3時頃に相双保健所を出発し、約5時間かけて、いわき光洋高校体育館に午後8時頃に到着した。この時点で8人の死亡が確認された。
 14日夕方/12旅団司令部は双葉病院に残留している患者の救助を指示。郡山駐屯地を出発したが、原発が危険な状態であるという情報を得て、午後915分頃全部隊に対して「一時避難」を指示した。
 14日午後958/双葉病院に詰めていた双葉署副署長は双葉署緊急対策室から、「一時避難を離脱せよ」との指示を受け、鈴木院長と、ドーヴィル双葉の施設長、ケアマネの3人とともに、川内村割山峠まで退避した。
 14日午後1010/福島県警災害警備本部は、双葉署副署長に「緊急の危険性はないので、救助活動を継続せよ」と指示し、同署長らは双葉病院付近に戻ったが、自衛隊のすべての車両がいなくなり、あたりには自衛隊の資機材が散乱しているのを見て、「ただごとではない」と考え、再び割山峠まで退避し、救助の自衛隊を待つと県警警備本部に連絡した。しかし、この情報は自衛隊には伝達されず、双葉署副署長と院長らは自衛隊と合流することができなかった。
 15日午前130分頃/東北方面総監部統合任務部隊が避難を開始した。しかし、11時頃には、放射線量の急上昇のために患者47人について避難させた時点で継続を断念し、双葉病院を離れた。
 15日午前11時半頃/4陣避難 第12旅団衛生隊が双葉病院に到着し、病院内に残留していた7人を救助し、1215分には搬送を開始し、指令部に対して「救助は終了した」と報告した。しかし、この時点で、別棟に35人の患者が残されていたが、先発隊と合流し、情報交換することができなかったため残留者の存在に気づかなかった。
 第3陣と第4陣の患者たちは伊達ふれあい総合センターに搬送されたが、搬送完了時に2人の死亡が確認された
 15日午後915分頃/12旅団衛生隊が双葉病院に向けて出発。
 16日午前035分頃/5陣避難 病院別棟から残留していた患者35人の救助を開始した。この35人は霞ヶ城公園及びあづま総合運動公園に搬送されたが、搬送完了時に5人の死亡が確認された。

 以上が、双葉病院の悲劇です。

 自分で本の中の文章をパソコンで打ち込んでいて、本当に辛い気持ちになる話だと思いました。

 東電刑事裁判では、証人尋問の最後に、指定弁護士の久保内弁護士が「地震と津波だけなら亡くなっていたと思いますか」と聞くと看護副部長は「双葉病院には使える医療器具や薬品が残っていました。原発事故がなければ、病院で治療を続けることができました」と答えていたとのことです。

 亡くなった方々は認知症などの精神科疾患はあっても、深刻な身体疾患はなかったものが大半で、中には統合失調症で43歳だった方もいたとのことです。

 僕も統合失調症なので、他人事に思えませんでした。

 双葉病院の悲劇について裁判で、原発事故とりわけ高い放射線量のために避難が遅れ、混乱し、十分な医療とケアが提供できなかったために、起訴状に掲載されているだけで、44人もの命が失われたことが明確に立証されたとあります。
 母を奪われた女性の調書では、「体育館で母の安否を確認した。自衛隊の車で12時間、200キロの搬送で死亡との説明だった。速やかな搬送よりもスクリーニングが優先された。人間としての尊厳などまったくない状態でバスの中に転がされていた。せめて暖かな場所で最後を看取りたかった。ただただ、いとしい母でした。思いがこみ上げます私は原発事故でふるさとと母を一瞬で奪われました。改めて原発事故に強い怒りを覚えます」と意見が述べられているとのことです。

 福島原発事故による被害については、

 福島原発事故による避難生活では、避難先での生活環境の変化によるストレスが大きな要因となった自死事件を含む災害関連死亡が発生し、2018220日までの累計で福島県だけで総数は2211人に達していると書いてあります。

 原発事故当時18歳以下だった約38万人を対象にした福島県の甲状腺検査が実施されました。福島県は因果関係を否定していますが、福島県内だけで、209人(20186月段階)の子どもの甲状腺がんの発生または疑いがあり、一部は再発し重症化していると書いてあります。

 福島原発事故による被害がとても大きいことが分かります。

 これだけの大きな被害があるなら、福島原発事故の刑事責任を問うことはとても大事な事だと僕は思いました。

東電刑事裁判に関心を持っている方なら一読の価値のある本だと思いました。

 先日は、「東電刑事裁判で明らかになったこと」という本を読んでみたので本の中の文章を引用しての本を読んでの感想を書いておきます。

 早稲田大学探検部関係者には是非、ご一読していただきたい本です。

  2019年9月19日の東京地裁判決を前にして作られた短編映画「東電刑事裁判 動かぬ証拠と原発事故」はこちら

                ↓

 




2018年11月23日金曜日

『映画に学ぶ危機管理 』

『映画に学ぶ危機管理     

齋藤富雄/編著       晃洋書房      2018.9

「シン・ゴジラ」「八甲田山」「日本沈没」…。娯楽作品として制作された映画を教材として取り上げ、研究者や阪神・淡路大震災を経験した防災実務家が、実践的視点から危機管理を易しく説く。
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『除染と国家 』 21世紀最悪の公共事業

『除染と国家  21世紀最悪の公共事業 

日野行介/著  集英社 2018.11

福島第一原発事故後に数兆の予算を投じられ行われた除染作業。その効果は怪しいままに避難住民の支援は打切られ帰郷を促されている。環境省の非公開会合の記録を入手した著者が、官僚、学者に取材し、為政者の真意を暴く。

Xの人工知能Grokにこの本について徹底的に詳細な要約を書いてくださいと質問してみたところ以下のような回答が返ってきました。

『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』 詳細な要約書籍概要著者:日野行介
出版社:集英社(集英社新書)
出版年月:2018年11月16日
ページ数:224頁(上製本)
ISBN:978-4-08-721057-6
この書籍は、東京電力福島第一原子力発電所事故(3・11)後の放射能除染事業を「21世紀最悪の公共事業」と位置づけ、政府の欺瞞と国家の腐敗を内部文書・取材に基づき徹底的に暴くノンフィクション・ルポルタージュである。著者の日野行介は、毎日新聞記者として福島取材を専門とし、環境省の非公開会合記録を入手・分析。官僚・学者の「生の声」を直撃取材し、除染が事故の幕引きツールとして機能した実態を明らかにする。数兆円の税金投入にもかかわらず、効果の怪しい除染、汚染土の仮置き・再利用の無責任、住民支援の打ち切りを批判。出版当時、森友・加計学園問題との類似を指摘し、国家の民主主義崩壊を象徴的に描く。書評では、「スリリングな格闘技のような取材記録」「官・学の偽装行為のリアル」と絶賛され、今日(2025年)でも福島復興政策の批判的参考文献として引用される。全体のトーンは、淡々とした事実羅列と鋭い筆致が交錯し、読者に「絶望的な愕然」を喚起。目次は6章構成で、序章・あとがきを加え、除染の幻想から国家崩壊の総括へ展開する。序章 除染幻想-壊れた国家の信用と民主主義の基盤本書の核心を宣言する導入部。除染事業が、原発事故を一方的に幕引きするための「武器」であり、国家の信用と民主主義の基盤を破壊したと断言。著者は、環境省の非公開会合記録(プロジェクトチームの議事録)を入手した経緯を明かし、これを基に官僚・学者の取材を重ねたプロセスを説明。事故関連問題(公文書隠蔽・改ざん、説明責任放棄)が、森友・加計学園問題、南スーダン日報隠蔽、厚生労働省データ捏造など国政全体の腐敗と同根であると指摘。「中央政界の腐敗以前から、この国の崩壊は始まっている」との引用で、除染を国家病理の象徴に位置づける。読者に「直視せよ」と促す重い幕開け。第一章 被災者に転嫁される責任―汚染土はいつまで仮置きなのか除染で発生した膨大な汚染土(フレコンバッグ詰め、総量約1,200万立方メートル)の仮置き実態を追う。数兆円の予算で除染を実施したものの、土壌の放射性セシウム(Cs-137)は深部に残り、再汚染のリスクが高い。政府は住民に「帰還可能」と宣伝する一方、汚染土を福島県内の仮置き場(例: 富岡町の管理型処分場)に押しつけ、責任を被災者に転嫁。データとして、仮置き場の漏出事故(雨水によるセシウム流出)を挙げ、30年後の最終処分約束の虚構を暴露。元官僚の証言から、「最終処分場は最初から見つからない前提」との内部認識を明かし、住民の精神的負担(PTSD増加)を人間ドラマとして描写。チェルノブイリとの比較で、日本式除染の非効率性を強調。第二章 「除染先進地」伊達市の欺瞞福島県伊達市を「除染モデル都市」として喧伝された欺瞞を解体。市は除染完了をアピールし、帰還促進を図るが、実際は表層除去のみで森林・河川の汚染が残存。著者は現地取材で、除染後の空間線量率(1時間あたり0.23マイクロシーベルト超の箇所多数)を測定し、基準値(年間1ミリシーベルト)の達成が「見せかけ」であることを証明。市長・住民インタビューから、経済誘致(補助金依存)の裏側を暴く。データ:除染費用(1平方キロあたり約200億円)の浪費と、風評被害の継続。政府の「成功事例」プロパガンダが、住民の健康不安を増大させるメカニズムを分析。第三章 底なしの無責任-汚染土再利用(1)汚染土再利用計画の無責任さを第一部として批判。環境省は汚染土を「資源」と位置づけ、道路基盤材やコンクリート骨材への活用を推進(基準値8,000Bq/kg以下)。しかし、内部文書から、再利用時の飛散・浸出リスク(セシウムの土壌再汚染)を無視した「逆算基準」の恣意性を暴露。取材で、学者が「国民のため我慢を」と漏らす発言を引用し、公共事業の名の下に全国汚染拡散の危険を警告。事例:道路盛土での試験使用(福島県内)が、住民反対で頓挫。著者は、これを「底なしの無責任体質」の象徴とし、IAEA(国際原子力機関)基準との乖離を指摘。第四章 議事録から消えた発言-汚染土再利用(2)非公開会合の議事録操作を核心に据え、第三章の続編。環境省プロジェクトチームの記録から、削除された発言を復元:基準値8,000Bq/kgを「8ベクレル/g」と表記変更して「小さく見せる」議論(P181)、議事録破棄・再作成の指示(P180)。学者・官僚の「作文の得意な人」発言(P182)で、国民欺瞞の意図を赤裸々に描く。取材で、会合メンバーが「議事録に残すと困る」とのホンネを吐露。データ:再利用シナリオの逆算(安全性を後付け)が、科学的根拠を欠く。政府の「情報統制」が民主主義を破壊するプロセスを、時系列で詳細に追跡。第五章 誰のため、何のための除染だったのか除染の真の目的を総括的に問う。除染は住民保護ではなく、東京電力の賠償抑制と事故「終結」宣言のための政治ツール。データ:避難者支援の打ち切り(2018年時点で16万人超の避難継続)と、帰還促進の矛盾(精神的健康被害増加)。取材で、環境省官僚が「日本のためお国のために我慢しろ」(P182)と語る姿を挙げ、被災者軽視を糾弾。チェルノブイリの封鎖型対策との対比で、日本式除染の失敗(二次汚染促進)を科学的に検証。最終的に、除染が「国家の信用喪失」を加速させた逆説を強調。第六章 指定廃棄物の行方指定廃棄物(家畜糞尿、浄化槽汚泥など、総量約400万トン)の処理問題に焦点。低レベル廃棄物処分場(青森県六ヶ所村)への搬入計画が、風評被害懸念で停滞。内部文書から、政府の「仮置き無期限化」方針を暴露。事例:福島県内の焼却施設での不十分処理(ダイオキシン混入リスク)。取材で、地元自治体の反発と、廃棄物拡散の全国的影響を描写。海洋放出の可能性(トリチウム水関連)を予見し、グローバルリスクを警告。あとがき 原発事故が壊したもの総括として、原発事故がもたらした「壊れたもの」(公文書制度、説明責任、国民信頼)を列挙。除染事業を通じて、国家の腐敗が露呈したと結論づけ、継続的な監視を呼びかける。著者は、自身の取材苦闘を振り返り、読者に「行動の義務」を促す希望的余韻を残す。全体のテーマと意義
  • 主要テーマ: 除染の欺瞞(仮置き・再利用の無責任)、議事録操作と情報隠蔽、住民転嫁と国家腐敗。除染を「21世紀最悪の公共事業」と断じ、官僚・学者のホンネ(「国民欺けばいい」)を内部文書・取材で裏付け。チェルノブイリ比較や疫学データ(被曝リスク)を交え、科学的・人間的深みを加える。
  • 科学的・社会的意義: 出版時(2018年)、環境省の非公開資料公開を促し、住民訴訟の基盤に。今日(2025年)、中間貯蔵施設の稼働遅延(2045年移管未達)で再評価。批判として「感情的」との声もあるが、民主主義回復の警鐘として有効。
  • 限界と補完: 取材時点(2018年)限定で、最新進展(ALPS処理)未反映。読後感は重いが、暴露のスリルが持続的議論を喚起。
この要約は、出版社資料・レビューを総合した徹底版。原書読破を推奨する。



『日本を見つめる』


『日本を見つめる』  

小澤俊夫/著  小澤昔ばなし研究所   2018.9

原発は本当に必要なのか。みんなが空気を読んだらどうなるか…。子どもたちに明るい国を贈るために、口承文芸学者が日本の教育の問題や政治的な動きについて綴る。季刊誌『子どもと昔話』連載を単行本化。

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2018年11月16日金曜日

『献灯使』


『献灯使』   

多和田葉子/著       講談社 2014.1

大災厄に見舞われた後、鎖国状態の日本。死を奪われた世代の老人・義郎には、体が弱い曾孫・無名をめぐる心配事が尽きない。やがて無名は「献灯使」として海外へ旅立つ運命に…。『群像』掲載の表題作ほか、全5編を収録。

Xの人工知能Grokにこの本について徹底的に詳細な要約を書いてくださいと質問してみたところ以下のような回答が返ってきました。

『献灯使』(けんとうし)は、多和田葉子が2014年に発表した長編小説で、作者にとって初の「日本語で書かれた本格的な長編」として注目されました。ドイツ在住の多和田が、それまで主にドイツ語で執筆していた後に、母語である日本語で挑んだ意欲作であり、語りの密度の高さと独特の言語感覚で多くの読者を圧倒しました。第150回芥川賞候補作(2014年上半期)にもなっています。以下に、徹底的な詳細ネタバレ要約(全編のストーリーと結末を含む)を記載します。未読の方はご注意ください。あらすじ(全体像)舞台は「近未来の日本」。東日本大震災と福島第一原発事故の後に、深刻な放射能汚染と政治的混乱が続き、日本は事実上崩壊寸前となっている。海外からの帰国がほぼ不可能になり、国内では「健康な若者」が極端に少なくなり、高齢者が圧倒的多数を占めるディストピア社会が描かれる。政府は「健康で長生きできる若者」を確保するため、厳しい身体検査を課し、合格した少年だけに「献灯使(けんとうし)」という特別な資格を与える。この資格を持つ者は、死にゆく高齢者の「最後の願い」を叶えることを義務づけられ、死体処理まで担う。物語の主人公は、この献灯使に選ばれた少年・吉岡良(よしおか りょう)である。詳細なストーリー(章立てに沿った展開)
  1. 序盤:献灯使の選出と祖母の死
    • 主人公の吉岡良(中学3年生くらいの年齢)は、年に一度の「身体強健度検査」で最高ランクを獲得し、「献灯使」に任命される。
    • 同時に曾祖母(ひいおばあちゃん)が末期がんであることが判明し、家族は安楽死を決断する。
    • 良は初めての「仕事」として、曾祖母の最期を看取ることになる。曾祖母は「死ぬ前に一度だけ、昔食べた『赤いトマト』を食べたい」と言い残す。
    • しかし放射能汚染のせいで、本物のトマトは絶滅危惧種並みに高価で手に入らない。良は偽物の「トマト風味ゼリー」を買ってきて曾祖母に食べさせるが、曾祖母は「これじゃない」と拒否し、結局死ぬ間際に「もういい」と諦める。
  2. 中盤:連続する「依頼」と社会の異常さ
    • 一度献灯使になると、良は次々と高齢者からの「最後の願い」を押しつけられる。
    • 依頼内容は次第にエスカレートしていく。
      • 「若い男の子とセックスしたい」(80歳の女性)
      • 「昔の恋人とデートしたい」(認知症の老人)
      • 「孫と一緒にゲームしたい」(でも孫はもう死んでいる)
      • 「海外旅行に行きたい」(でもパスポートは没収されている)
    • 良は身体的・精神的に追い詰められていくが、拒否すれば「献灯使資格剥奪→強制労働施設送り」という恐怖があるため、どんな願いも叶えようとする。
    • この過程で、日本社会の異常さが容赠なく描かれる。
      • 若者は「国家の宝」として過剰に保護される一方で、高齢者からは「使い捨ての玩具」扱いされる。
      • 海外との交流は完全に断絶され、「外の世界」は都市伝説のような存在になっている。
      • 食料はほぼ全てが人工物で、本物の野菜・果物・肉は超高級品。
      • 「死」はタブーではなく、むしろ日常的に「処理」される業務。
  3. 後半:良の精神崩壊と「最後の依頼」
    • 良は依頼をこなすうちに、自分が「人間」ではなく「道具」になっていることに気づき始める。
    • ある日、良自身が「もう若者ではない」と宣告される瞬間が近づいていることを知る(放射能の影響で突然「老化」が始まるケースが増えている)。
    • 最後にやってきた依頼は、良の祖父(すでに死んでいるはずの人物)からのものだった。
      • 祖父は「もう一度、孫と一緒に暮らしたい」と言い、良を「自分の家」に連れていく。
      • 実は祖父は死んでおらず、隠れて生き延びていた。政府に「死んだことにされて」地下で暮らしていたのだ。
    • 祖父は良に告げる。 「お前はもう若者じゃない。もうすぐお前も俺たち(高齢者)になる。だから今のうちに逃げろ」
  4. 終盤~結末
    • 良は祖父の助けを借りて、厳重に封鎖された「国境」を越えて海外へ脱出しようとする。
    • しかし、国境付近には「帰国困難者」(かつて海外にいて帰れなくなった日本人)が野営しており、彼らは「日本に帰りたい」と叫びながら良を阻む。
    • 良は最後に、自分の「若さ」を象徴する「献灯使の徽章」を捨て、川に飛び込んで泳ぎ切る。
    • 対岸にたどり着いたとき、良は「もう若くない自分」を受け入れ、同時に「外の世界」があることを確信する。
    • 最後の一文: 「水は冷たかった。でも、生きているということは、こういうことなのだと思った。」
主要なテーマと読みどころ
  • 高齢化社会の極端な未来像(現実の日本が向かっている道を極端に突き詰めたディストピア)
  • 「若さ」という価値の暴走と、それに翻弄される少年の悲劇
  • 死のタブー視からの解放と、安楽死・尊厳死の倫理的問題
  • 言語の崩壊(多和田特有の、言葉が少しずつ変質していく描写)
  • 「外の世界」の存在(封鎖された日本から見える「希望」か「幻想」か)
文体・特徴多和田葉子らしい、どこか冷たくて距離感のある文体で、残酷な出来事を淡々と描写する。そのギャップが読者の胸に深く刺さる。会話も現実離れしていて、まるで夢の中のやりとりのような不気味さがある。総評読後感は非常に重く、読んでいる間ずっと「息苦しさ」を感じる人が多い作品です。しかし同時に、「今の日本がこのまま進めば本当にこうなるかもしれない」というリアルな恐怖があり、単なるディストピア小説で終わらない重層的な問題作です。「若さが商品化された社会で、若者は本当に幸せなのか?」という問いを、容赦なく突きつけてくる、2014年時点で既に「予言的」だった問題作と言えるでしょう。



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