『日本の原子力外交』 資源小国70年の苦闘

『日本の原子力外交』  資源小国70年の苦闘 中公叢書       

武田悠／著       中央公論新社       2018.5

1945年から福島原発事故を経て、原発が再稼働する2015年頃までの約70年間、日本政府はいかに平和利用と核不拡散を両立させようとしてきたか。日米関係を中心とした日本の原子力外交の歴史を紐解く。

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『日本の原子力外交 資源小国70年の苦闘』 武田悠／著（中央公論新社、中公叢書、2018年5月発行） 詳細な要約書籍の概要と背景『日本の原子力外交 資源小国70年の苦闘』は、戦後日本の原子力政策を外交史の観点から検証した専門書で、中公叢書の一冊として刊行されました。発行日は2018年5月10日、ページ数は298頁、四六判並製、定価1,760円（税込）。ISBNは978-4-12-005084-8。 本書は、資源に乏しい日本が戦後70年にわたり、原子力の平和利用を推進しつつ、核不拡散の国際的規制に苦闘してきた歴史を、外交文書や関係者の証言を基に追うものです。1945年の敗戦から2011年の福島第一原子力発電所事故（以下、福島事故）以降までを時系列的に分析し、原子力外交が日本外交全体の縮図であることを強調。資源小国としてのジレンマ（エネルギー自給率の低さ、石油依存の脆弱性）を背景に、日米関係を中心に西欧諸国や第三世界との連携を駆使した外交努力を描き、核拡散防止体制（NPTなど）の確立過程で日本が果たした役割を明らかにします。福島事故後の信頼回復の苦闘を終章で扱い、原子力外交の「行方」を展望。全体として、平和利用の推進と核不拡散の両立という相矛盾する目標を巡る日本の試行錯誤を、国際政治の文脈で解明する内容です。 執筆の背景は、福島事故から7年が経過した2018年当時の原子力政策の再考にあります。著者は、事故が日本の原子力外交に与えた打撃を指摘し、戦後史の観点から再検証の必要性を主張。資源小国としての日本が、核技術をエネルギー安全保障の鍵として追求した一方で、米国主導の核不拡散規制に縛られ、独自の核燃料サイクル（再処理・高速増殖炉）を巡る外交苦闘を描くことで、現代のエネルギー政策（再稼働や核燃料サイクル見直し）の教訓を導きます。参考文献はp279-289に279項目を収録し、日本の原子力外交関連年表（p290-298）が付録として付属。レビューでは、「原子力政策の歴史的背景を詳しく知ることができ、エネルギー政策を考え直すきっかけになる」「日米関係の複雑さがよくわかるが、専門用語が多く読みにくい」との声が共通。読書メーターでの評価は平均4.0（レビュー数約5件）と高く、専門家や政策研究者から「通史的価値が高い」と評価されていますが、一般読者層は限定的です。 2025年現在、福島事故後の再稼働議論や核燃料サイクル政策の停滞（もんじゅ廃炉など）で、本書の指摘が予見的価値を発揮しています。著者の紹介武田悠氏は、1982年岡山県生まれの国際政治学者・外交史研究者。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士（法学）。専門は国際関係論、外交史、原子力政策。広島市立大学国際学部講師（当時、2025年現在も在職）。笹川平和財団での政策提言や国際安全保障学会の書評委員として活躍し、原子力政策の国際的文脈を研究。著書は本書が初の単著で、博士論文を基に一般向けにまとめられたもの。研究テーマは、戦後日本の対米協調外交と原子力政策の交錯で、米国公文書館や日本外交史料館の資料を活用した実証的アプローチが特徴。関連論文に『「経済大国」日本の対米協調――安保・経済・原子力をめぐる試行錯誤』（2018年、国際安全保障）などがあり、原子力外交の「苦闘」を資源小国としての日本の宿命として描く視点が独自性が高い。 全体の構造とテーマ本書は全7章＋序章・終章の構成で、時系列的に日本の原子力外交を追う。各章が特定の時代をテーマに、外交交渉の詳細を文書・証言で検証。総ページ298頁のうち、歴史的事実の記述が大半を占め、参考文献・年表が巻末に収録。テーマは以下のカテゴリに分類可能です：

1. 資源小国としてのジレンマ：エネルギー自給率の低さから原子力導入を迫られた日本の苦闘。
2. 日米関係の軸：核不拡散と平和利用の狭間で、米国との規制交渉を中心に描く。
3. 国際連携の戦略：インド核実験後の西欧・第三世界との協力と、NPT体制の確立。
4. 事故後の課題：福島事故がもたらした信頼喪失と、外交的再構築の試み。
5. 政策の教訓：原子力外交の行方として、持続可能性と核不拡散の両立を提言。

一貫した主張は、「資源小国日本は原子力外交を通じて国際社会で存在感を発揮してきたが、事故でその基盤が揺らいだ」であり、平和利用の推進が核拡散防止のジレンマを生んだ構造を解明。実証的アプローチで、外交史の観点から原子力政策の「苦闘」を浮き彫りにします。 以下に、目次に基づく章ごとの詳細な要約を記述します。内容は、著者の主張と歴史的事実を中心にまとめ、完全な原文に基づかないため、テーマの核心を優先しています。 章ごとの詳細要約

• まえがき（約5頁）
  著者の研究動機を述べ、資源小国日本の原子力外交が戦後外交の核心であることを宣言。福島事故を契機に歴史を振り返る意義を強調し、平和利用と核不拡散の両立がもたらした苦闘を予告。実証史料の活用をアピール。
• 序章 国際政治と日本の原子力外交（約20頁）
  原子力外交の定義と国際政治的文脈を概観。資源小国日本がエネルギー安全保障として原子力を導入した背景を説明し、日米関係の規制と日本の対応を軸に、核不拡散体制（NPT）の形成過程を予備的に論じる。原子力外交が日本外交の「影の主役」であることを主張。
• 第1章 原子力の導入へ—一九四五〜六四年（約40頁）
  敗戦から原子力導入までの初期段階を検証。1945年の広島・長崎原爆投下後のGHQ占領政策（核研究禁止）と、1950年代のアイゼンハワー政権の「平和のための原子力」構想を背景に、1955年の日米原子力協定の成立を詳述。日本が米国から原子炉・核燃料を導入した一方で、軍事転用規制の厳しさを指摘。松永安左ェ門（電力中央研究所理事長）らの役割を挙げ、原子力委員会の設置と平和利用の原則化を分析。資源小国としてのジレンマを強調。
• 第2章 平和利用への一本化—一九六四〜七〇年（約30頁）
  1960年代の原子力政策の深化を扱う。1964年の東京オリンピック前後の原子力予算拡大と、商用原子炉の導入を背景に、日米協定の改正交渉を論じる。核拡散防止条約（NPT）交渉の初期段階で、日本が平和利用の保障を求め、米国に抵抗した過程を文書で追う。佐藤栄作首相の「非核三原則」宣言と、核燃料サイクル（再処理）の基盤形成を分析。資源確保の観点から、原子力外交の積極化を指摘。
• 第3章 インド核実験の衝撃—一九七〇〜七六年（約40頁）
  1974年のインド核実験がもたらした国際的衝撃を焦点に、日本外交の転機を検証。インドの「平和利用爆発」がNPT体制を揺るがせ、米国が核輸出規制を強化した文脈で、日本がフランスや西ドイツと連携して米国を説得した過程を詳述。核拡散防止の国際ルール（NSGガイドライン）の形成に日本が関与した役割を強調。国内では、原子力基本法の改正と、核燃料再処理の推進を分析。
• 第4章 迷走のアメリカ、日欧の説得—一九七六〜八二年（約40頁）
  カーター政権の核不拡散政策（再処理禁止）と日本の抵抗を扱う。1977年の日米原子力協定改正交渉で、日本が再処理権を主張し、西欧諸国と共同で米国を説得した外交努力を文書で追う。核燃料サイクル外交の苦闘を象徴し、1980年のレーガン政権移行後の緩和を分析。日本の外交が国際ルールの形成に寄与した点を評価。
• 第5章 相次ぐ事故と日米協定の改定—一九八二〜九二年（約30頁）
  1986年のチェルノブイリ事故と1989年のスリーマイル島事故の影響を背景に、日米協定の改定（1988年）を検証。事故がもたらした国際的規制強化と、日本の核燃料サイクル推進の狭間で、外交的調整を論じる。プルトニウム輸送問題や、冷戦期の核拡散懸念を分析。
• 第6章 冷戦崩壊後の積極的関与—一九九三〜二〇一〇年（約30頁）
  冷戦終結後の原子力外交の変化を扱う。1990年代の北朝鮮核問題やイラン核開発をめぐり、日本がNPT体制の強化に積極的に関与した過程を追う。六ヶ所再処理工場の稼働と、国際原子力機関（IAEA）との協力、核不拡散イニシアチブの推進を分析。原子力ルネサンスの時代背景を概観。
• 第7章 3・11以後の混乱—二〇一一〜一七年（約40頁）
  福島事故後の原子力外交の苦闘を焦点に。事故が国際的信頼を損ない、再稼働や輸出政策（例: インドへの原子力協力協定）が難航した実態を検証。米国との協定改正（2017年）と、核不拡散の観点から日本の役割を再考。事故の教訓として、安全基準の国際化を提言。
• 終章 日本に課せられた役割（約20頁）
  70年の歴史を総括し、日本の原子力外交の行方を展望。資源小国としての限界を認めつつ、平和利用と核不拡散の両立がアジア太平洋の安定に寄与することを主張。福島事故後の信頼回復と、再生可能エネルギー移行の可能性を提言。国際社会での日本の役割を強調して締めくくり。
• あとがき（約5頁）
  研究の経緯と謝辞。原子力外交の重要性を再確認し、読者に政策議論の深化を呼びかける。

全体の評価と示唆本書は、原子力外交の通史として実証性が高く、読了後に日本のエネルギー政策の複雑さを痛感させる力作。レビュー数は少なく（読書メーターで4件程度、Amazonで0件）、専門書的なため一般人気は薄いが、「歴史的事実の詳細が豊富」「外交交渉の裏側が興味深い」との好評。一方、「用語が専門的で初心者にはハードルが高い」などの指摘も。欠点として、福島事故後の分析がやや短い点が挙げられますが、2025年現在、再稼働や核燃料サイクル政策の見直し議論で予見的価値が高い。著者の関連論文と併読で深まる。徹底的に読み解けば、資源小国日本の外交戦略を問い直す鏡となる一冊です。

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